想元紳市ブログ

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藤野千夜『親子三代、犬一匹』

2008年、新聞に連載された小説である。

祖母、母、姉、弟と犬のありふれた日常を、淡々と、ユーモラスに描いた独特の世界が心地いい。

たとえば、次のような文章。

『「ねえ、トビ丸って誰の犬なの?夕樹?」
ふいに明彦おじさんが訊いたので、
「トビたんは妹だよ」
章太は驚いて答えた。
「そっか、ごめん、妹か。じゃあ俺の姪っ子だな。トビ丸は」
「うん」章太はうなずくと、やさしい明彦おじさんと一緒に、今来たばかりの道を戻った。
一緒に住んでいるから家族。
甥っ子の妹だから姪っ子。
それくらいのゆるい考え方が、たぶん今の柴崎家にはちょうどいい。似合っている。』

藤野千夜自身、性同一性障害なのか、ゲイなのか、女装趣味なのか、おそらくはっきり明言していなかったと思うが、そうしたゆるい立ち位置は、まさに彼女の書く小説世界そのものである。

物事を、あるがまま、そのままの状態で置いておく優しさ。

彼女の作品の中では、ゲイのカップルを描き、芥川賞を受賞した『夏の約束』が一番好きだ。

今も憶えているのは、芥川賞受賞直後、新聞に掲載された受賞コメントである。
友人の家に遊びに行き、散歩がてら芥川龍之介の墓を探しに行った、という日常を綴った風変わりなエッセイだった。
結局、芥川の墓は見つからず、代わりに太宰の墓に手を合わせて帰ったという結末だったと思う。

いかにも藤野千夜らしく、数あるその手のコメントのうちで最も印象に残っているもののひとつだ。


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