想元紳市ブログ

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田辺聖子『うたかた』

久しぶりに田辺聖子の短編が読みたくなり、手にした『うたかた』。

収録された5編は、処女作『虹』をはじめ、いずれも昭和30年代に書かれたものだというから驚く。
今読んでも、少しも古びていないばかりか、むしろみずみずしいほどだ。

表題作『うたかた』はチンピラの男の切ない恋。

「俺たちはさんざんペッティングした。ずいぶん疲れているのに、精神だけは、手でつかまえられないほどきらきらと高くとんでいくようで、どっちものぼせるほどうれしくて、おたがいが好きだというきもちだけでクスクスケラケラ笑い通しだった」

しかし、女は突然消える。
消えた女を、あっちこっち探して歩くが、やっと見つけた女は、まるで別人になっていた。
最後、男はこう思う。

「人間なんてうたかたみたいなもんだ。ただ、恋したときだけ、その思いが人間自身より、生きているようだ」

処女作の『虹』は足の悪い女の子の叶わぬ恋。

「人間の真実というものは虹に似ていた。虹である人生の真実の生命は一瞬のものだとは、いったい、だれが知り得よう? 人間が真実を抱いていても、それが相手に伝わり、はっしとひびくのは、ほんの一瞬で、しかも汐のみち干のようにそれはきまりのある時ではなく、いつ光りだすか、わからないのだ。虹のように光り虹のように消えてしまう。そして人はまたもや蒙昧の悲しい暗闇に沈み、ねむり、時をすごす」

なんとせつない文章だろう。

田辺聖子の小説には、こんな宝石のような言葉がいたるところに散りばめられている。

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