想元紳市ブログ

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ミレーナ・ブスケツ『これもまた、過ぎゆく』

書評欄で見つけ、特にタイトルが気に入ってメモしてあったのが本書、『これもまた、過ぎゆく』。

スペイン在住の編集者・ジャーナリストであるミレーナ・ブスケツが小説家として発表した長編二作目だという。

ブスケツの母も、フランコ政権時代に自身の出版社を率いてリベラルな言論活動を行っていた有名な編集者。本作はその母の死に伴う喪失感、愛憎入り混じる複雑な感情を記した自伝的要素の強い小説である。

主人公は、母の葬儀を終えたばかりのバツ2のシングルマザー、ブランカ。
元夫二人、それぞれとの間にもうけた子供たち、女友達、現在の不倫相手など様々な人間関係が入り混じる日常が綴られる中で、主人公がたびたび「あなた」と二人称で呼びかける相手が、亡き母親だ。

「わたしの友だちや子どもたちの愛を全部合わせても、あなたの不在という衝撃には充分といえない。(中略)女性のほとんどは男性に父親像を探しもとめるものだというけれど、わたしはあなたを探している。あなたの生前でさえそうだった」

主人公の性的奔放さに眉をひそめる読者も少なからずいるという。

「死の反対は生ではない、性だ。そして病魔がより激しく容赦なくあなたを侵していくにつれて、わたしの性的関係も激しく容赦なくなっていった。まるで世界中のあらゆるベッドで、ただひとつ、あなたの戦いだけが展開されていたのだとでもいうように。わたしたち絶望した者は絶望的になってセックスするんだとわかりきっている」

そうして語られる主人公の恋愛観には、それなのに、なぜか共感してしまう普遍性がある。

「ラブストーリーに後退はない、恋愛関係はいつでも一方通行で後戻りできない道路だ」

「わたしたちの見るものは自分がどんな存在かを完全に表わしている。そして本能的に自分と同じものが見える人を愛する。そういう相手は即座に識別できる。(中略)わたしたちが考えることはそれほど重要ではなく、肝心なのは見えるものだ」

タイトルは中国の昔話に由来する、母の教えである。
一人の皇帝が国中の識者を集めて、”どんな状況でも必ず使える短い文を考えよ”との命令を下す。
そしてある賢者の答えが「これもまた、過ぎゆく」だったのだという。

”苦しみや悲しみは過ぎていくものよ、幸福感や満足が過ぎていくように”という母の教えを、しかし、主人公はあえて否定する。

「今、わたしはそれが真実ではないのを知っている。わたしは死ぬまであなたを失ったまま生きていく。愛着を抱くことの唯一のかたちとして、あなたはわたしの心を矢で貫いた」

終盤のこの言葉に、主人公の再生の光を自分は見た気がした。


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