想元紳市ブログ

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春日太一『鬼才 五社英雄の生涯』

1992年に63歳で他界した映画監督・五社英雄の評伝。

とはいえ、生い立ちなどプライベートの部分はごくわずかで、大半は、フジテレビに入社してから亡くなるまでの仕事ぶりと、作品の裏話で占められている。

それなら、タイトルは『五社英雄の仕事』でよかったのでは、と思う気持ちは、中盤、一気に消え失せる。

どうやら、五社の代表作とも言える『鬼龍院花子の生涯』になぞらえたものであること。
そして、妻の借金と一家離散、実娘の瀕死の交通事故、本人の銃刀法違反による逮捕など、自殺すら考えた人生どん底の最中、壮絶な再起をかけて取り組んだ作品が『鬼龍院』だったことに圧倒されるのである。

反対意見を跳ね除け、監督に五社を後押しした、原作者・宮尾登美子の言葉。

「テレビ映画撮る人ならば、普通のサラリーマンでも大丈夫かもしれない。でも映画撮る人は、修羅場を見た人間でないと出来ないんじゃないかという気が前からありましてね。五社さんがつらい期間を経てこられたということで、ものすごく期待するものがあったんです」

修羅場を見た人間に対する強い思い入れは、五社自身も同様だった。

映画『陽炎』で、準主役に決まっていた荻野目慶子。ところが、撮影直前に自身のマンションで恋人が首つり自殺する。降板を申し出た荻野目を、むしろ積極的に推したのが五社だった。

「それを乗り越えてこの役になりきって入ってくれるんだったら女優荻野目慶子として非常に興味がある」

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破天荒な生きざまで波風も多かったが、不器用な男気溢れる魅力と、人間の本質を見抜く鋭い眼で周囲を虜にした五社。

印象に残った、例えば次の二つのエピソード。

三島由紀夫を説得し、映画『人斬り』に出演してもらった際、役作りについて質問された五社はこう答えて、あの三島をもうならせたという。

「テロリストとしたら一種の狂気じみたあなたの目だ、目のエネルギーだ、どう見てもあなたの顔の骨相は犯罪者だ」

また、雑誌のインタビューで一番印象に残っている女優は誰かと聞かれ、

「夏目雅子さん。あの人の魅力はね、暗さの中で明るく振る舞う、それに尽きますね」

五社は、強面な風貌だけでなく、『陽暉楼』の撮影中、自らの背中一面に刺青を入れていた。また、『吉原炎上』や『肉体の門』など、ある種ゲイ的な感性をも持ち合わせていた五社。

濡れ場を撮影するとき、五社は助監督相手に、自ら裸になって見本をみせたという。まず、自身が女の役になって助監督に攻めさせる。続いて助監督を女優に見立て、男の側の動きを演じてみせる。

想像するだけで、官能的だ。

五社の前では、多くの女優がヌードも厭わなかった。しかし、五社は描きたいのは裸ではなく人間の毒だとし、こう続けた。

「毒は、人生の中心にある。中心、ヘソから大きな渦みたいなものがグルリグルリと回り始める。それを見据えたい」

今の日本の映画界で、こういったタイプの監督は思いつかない。


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