想元紳市ブログ

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勝目梓『あしあと』

『あしあと』は、勝目梓の比較的最近の作品を集めた短編集。
自伝的な内容の『小説家』と『老醜の記』以来、お気に入りとなった作家である。

収録された10の短編に共通しているのは、勝目梓にしてはかなり抑えた官能描写とわずかにオカルトめいた展開。
ただし、オカルトとは言っても、ホラーの禍々しさはなく、人の記憶や強い念、執着といったスピリチュアルな世界だ。

冒頭、『万年筆』の主人公は、一向にペンが進まない中年の兼業作家。
妻は、なぜかセックスの絶頂のときに予言夢を見てしまうという霊感体質の持ち主である。
妻の夢に従い、妻の万年筆で執筆を進めるうちに、作家は万年筆にまつわる遠い過去の女に想いを馳せるようになる。

『橋』の主人公もまた、中年を過ぎた会社員の男。
ある日、家族を捨て家を出ていた父の最期を看取ったという女の妹から一通の手紙が届く。
疎遠だった父の素顔、さらにその女と自分のただならぬ因縁を知る男の心の揺れを描いて切ない読後感があった。

とりわけ気に入ったのが『一夜』。

先妻を病で亡くした54歳の須藤が、縁あって46歳で初婚の節子と再婚する。
節子は、14年もの間不倫関係にあった相手が6年前に他界したという過去を持っている。

「その人が背負ってきたものを知ってみると、楽しみのたわいのなさも深い孤独と寂寥感の顕れか、と思われてくるのだった。そこに寄り添っていきたいという須藤の思いは、彼自身の寂しさが生み出したものだった」

ある日、節子の叔母の墓参り先で、須藤は突然、若い頃、出家していたその叔母と夢とも幻ともつかぬような情交を持ったことを思い出す。

「妻に隠れて不倫をはたらいた夫さながらに、これからは懐かしくて甘やかな隠し事を持つうしろめたさを抱えたままで節子と暮していくことになるのだな、といった思いにつながっていくのだった」

それぞれに秘め事を抱えた大人の男女の成熟した関係が、なんとも甘美で味わい深い。


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