想元紳市ブログ

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花村萬月『守宮薄緑』

『守宮薄緑』は、花村萬月がデビューから芥川受受賞に至る数年にかけて発表された初期の短編をまとめたもの。

中にはやや毛色の異なるものもあるが、ほとんどの短編で共通して描かれるのは、性愛を介在させた男女の刹那的でやるせない関係である。
登場する男たちは、ヒモ、小説家、歌舞伎町のチンピラ、作家志望のフリーターなど。
つまり、私小説的色合いが濃いものばかりだ。

とりわけ心を打たれたのが、冒頭に収められた短編『崩漏』。

主人公の加賀は、女を風俗で働かせて金づるとするプロのヒモである。

「一見しただけでブランドがわかる服装やバッグで見栄を張りたがる者は成りあがりの田舎者、あるいはローンかクレジットでしか物を買えない奴隷だ」

プロのヒモたる鋭い洞察は、現代人の表面的な虚飾や仮面をさらりと剥ぎ取る。

加賀は、ある日の銀座で、お金持ちそうな美しい少女・真莉亜に目をつける。
ところが、真莉亜には軽い知的障害があるばかりか、それゆえ悪い男に利用され、ファッションヘルスで働く覚醒剤中毒者だった。

「ふと思った。真莉亜の美しさである。寂しい。しかし寂しいという言葉ではくくれない。なぜ、生きているのだろう、この少女は」

それでも、加賀はなんとか真莉亜を磨き上げ、上玉として高級ソープランドに高く売り込むことに成功する。

同時に、加賀は一途で純粋な真莉亜に内心惹かれつつあることに、おそらく自分でも気づいている。
幼い頃、川遊びの最中に溺死した妹の姿を重ねてしまうのだ。

ところが、加賀の企ては、ある事実が判明してあっさりソープランド勤め初日に頓挫し、多額の借金を背負うはめに……。

追い詰められた2人が、最後にたたずむのは腐敗臭の立ち込める、東京湾埋立地のゴミ集積場である。
頭の弱い真莉亜は加賀を「おにいちゃん」と慕い、無邪気なまま。

「真莉亜はどんなふうに歳をとるだろうか。加賀は薄く閉じた瞼の裏側で年老いた、それなのに幼女のような真莉亜に看取られて死ぬことを想った」

孤独な2人の行く末は深い闇だが、なぜかほのかな優しさと希望が漂うラストが秀逸。


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