想元紳市ブログ

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桜木紫乃『蛇行する月』

『蛇行する月』は、6編からなる連作短編集。

中心になるのは、北海道の高校で図書部の同級生だった清美、桃子、美菜恵、直子、順子。
短編ごとに年月はどんどん飛躍し、冒頭1984年からラスト2009年まで、彼女たちの25年が描かれる。

5人の中では、順子だけが全編を通して脇役で、その代わり、一編では順子の母が、もう一編では弥生という女が主人公になる。

弥生は順子が高校卒業後に働いた札幌の老舗和菓子屋の女将である。
順子と夫は不倫の関係で、妊娠をきっかけに、二人して行方をくらます。

それから必死に家業を支えて7年。家庭裁判所でようやく夫の失踪宣告が受理されようとしているところに、二人の東京の居場所が判明する。

実は、弥生には、ずっと仕事面で支えてくれた尾崎という男の存在もある。

「惹かれていることを口にしたことはなかった。最近は胸に飛び込まずに心を伝える術を探すようになった。年を重ねることの良さもあると弥生は思う。気持ちはとっくに尾崎に傾いている。(中略)男と女の関係には、育て続けることが最良の場合もあるはずだと思う」

二人の大人の関係がとても味わい深い。

気持ちの区切りをつけるため、弥生は東京を訪ねる決心をする。失踪届と離婚届の両方差し出し、夫に選ばせるのだ。駆け落ちした夫と対峙する妻という、ありきたりなシーンが桜木紫乃の手にかかると極上のクライマックスになる。

「自分の中にいないひとになること、この世にいないひとになること。生きて別れること、死んだことにすること。お互いに何が楽なのかは、これから時間をかけて確かめてゆくしかない」

陳腐に聞こえるかもしれないが、物語のテーマは一言、幸せとは何なのか、ということだ。

最も薄幸そうに見える順子が、自分は幸せだと事あるごとに呟く。

若い頃から、ただ自分自身に正直に、ひたむきに生きてきた順子。
高校時代、「ここしか来るところがなかったんです」と好きだった教師の家に押しかけ、一方的に告白したのも順子だった。

「目の前にあることに精一杯で昨日のことも明日のことも考える余裕がない」

もしかして、人生においてたくさんの選択肢に恵まれているのは、必ずしも幸せなことではないのかもしれない、とすら思えてしまう。

ラスト、2009年の物語をを読み終えるとき、読者は、一度も主人公には成りえなかった順子の生き様に思わず涙することになる。

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