想元紳市ブログ

2017年06月 ≪  12345678910111213141516171819202122232425262728293031 ≫ 2017年08月
TOP ≫ 青山文平『つまをめとらば』

青山文平『つまをめとらば』

直木賞を受賞した青山文平の短編集『つまをめとらば』。

久しぶりに読んだ時代小説で、6つの短編には好き嫌いがあったが、際立って秀逸だと思ったのは、ラストに置かれた表題作である。

10年ぶりに上野の桜の木の下で再会した、幼馴染の省吾と貞次郎は、ともに隠居の身で同じ歳の56歳。

作事下奉行だった省吾は、3人目の妻とも離縁し、今や覆面の戯作者として身を立てている。
一方の貞次郎は、大奥の広敷添番を務めたあと、独身のまま8年前に養子をとって、今は貸本屋を営みながら算学の研究をしている。

そんな貞次郎が、初婚を考えているという。
妻を迎え入れる準備として、省吾が自宅の敷地に持つ借家に引っ越してくると、二人はかつて感じたことのない穏やかな日常を共有することになる。

「自分がなにを好むかは、ほんとうに好むものと出逢って初めて分かる。省吾も、ほんとうの平穏を知って、それが自分にとってなにより大事と気づいたのだった。そして、その最も大事なものを得るためには貞次郎という相方が要ることにも気づいた」

初老の男二人が送る平穏な生活は、限りなくプラトニックなBLの世界である。

貞次郎の婚約者はなかなか姿を見せず、他方、省吾の家には佐世という一人の女が現れる。

佐世はかつて省吾の家で下女として働いていたが、奉公人と心中事件を起こした、今でいう魔性の女。その後、貞次郎とも心中騒ぎを起こしたという噂を耳にしていたが真相は定かでない。

味噌売りの佐世の来訪は、表立って二人の平穏な暮らしを壊しはしなかったものの、今のままではいけないという思いを二人に生む。

「齢を重ねるにつれ、分かったことが増えたが、分からないことも増えた。分かっていたことが、分からなくなったりする」

そう言って、貞次郎は借家を出て、別の場所で妻をめとる決心をするのである。

もちろん、二人の間にはっきりとした衆道の契りはない。それでも、深いところで互いを必要とし合っている。

「これまで衆道と聞くだけで忌避してきたが、そういう目を持てば、また別の姿も見えるかもしれない」

精神的な繋がりゆえにいっそう、二人のしみじみとした関係が味わい深い。

また、身に起こった厄介をすべて受け止め、事を荒立てず、その毒を創作に見出していく省吾の潔い生き方にも心打たれた。

スポンサーサイト

Comment


Comment Form













非公開コメントにする
Trackback

Trackback URL