想元紳市ブログ

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辻原登『冬の旅』

長い旅の物語は、2008年のある日、一人の男が滋賀刑務所を出所する場面から始まる。
男の名は緒方隆雄。
五年の刑期を満期で終えたこと以外、詳しいことは語られず、大阪の町に出たところで、長い回想に入る。

回想とは言っても、単に緒方の転落の半生ではなく、緒方と多かれ少なかれ関わる何人もの人物の視点に移動し、それぞれの人生も深く描かれるから、決して一筋縄ではない。
刑務所で知り合った老人、勤めた中華料理店のバイトの青年、看護婦だった妻、ホームレスの男など……。
共通しているのは、彼ら全員がおのおのの理由で堕ちて、破滅していくということである。

そんな彼らの生き様とともに、描かれるのが実際に起こった事件や災害である。
阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、ニューヨークの9.11テロなど。
宗教や信仰は、この小説を紐解く重要なテーマであり、アメリカで起きたカルト教団による集団自殺などについても多くのページが割かれている。
実際、主人公の緒方は一時期、新興宗教の会社に身を置くのだ。

多数の視点で描かれることで主人公の姿を見失い、しばらくは戸惑った。
ときに視点が混在してしまうところなど、新人作家なら真っ先に指摘されてしまう明らかな欠点も、おそらく辻原登という大御所のネームバリューと圧倒的な筆力そのものでねじ伏せるかのごとく、物語は進む。
最終章になって、やっと2008年の現在に戻るのだが、そうして迎える結末は、予想を裏切り衝撃的ですらある。

人が挫折し、堕落していくのは、どうしてなのか。
人生につまずくとは、どういうことなのか。
緒方は自らに問いかける。

「私は別様に生きえたのに、このようにしか生きえないのは何故であるのか」

そして、

「緒方は自らの人生の巡り合わせに思いを馳せ、再びそのスタート地点を特定したくなる」

緒方が最後、たどり着いた境地に、読後しばらく茫然としてしまった。


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