想元紳市ブログ

2017年09月 ≪  12345678910111213141516171819202122232425262728293031 ≫ 2017年11月
TOP ≫ 桜木紫乃『星々たち』

桜木紫乃『星々たち』

9編からなる連作短編集。

いつも通り北海道を舞台にした、9人の主人公の物語が綴られるなかで、その9人と様々な形で関わるひとりの女がいる。
女の名は塚本千春。
全編を読み終えた後、実は千春の数奇な一生を第三者の目を通して描いた一本の長編であったことに気づかされる。

見事に完結した、それぞれの短編の、ほとんど脇役でしかない千春が徐々に輪郭を帯びていく巧さは、まさに桜木紫乃の真骨頂という気がした。

最初は、少々陳腐だと思った『星々たち』というタイトルすら、実は深い意味を持っていることが終盤になってわかる。

冒頭の『ひとりワルツ』は、伊藤咲子のヒット曲『乙女のワルツ』に由来している。
主人公の名前も咲子。口癖は「咲かない咲子」。
スナックで働く咲子は、ヤマさんという訳ありの中年の男との一度の交わりと切ない恋をする。
昭和的とも、演歌的ともいえる世界は意図的に構築されたものだろう。

『逃げてきました』では、現代詩の師範である初老の男が、生徒の一人に官能的欲望を抱く。
その生徒が書いた『女体』という詩が、実に素晴らしい。

『冬向日葵』の主人公もまた初老の男。
十年以上前犯した殺人事件から逃亡し、身を偽って小さな漁村に女と暮らしている。死の床にある女の願いを叶えるために、小樽に女の一人娘を捜しに行く物語だ。

正直、どの短編も重苦しく陰鬱な雰囲気に満ちているのだが、ラストの『やや子』に見える希望と赦しに救われる。

やや子が言う。

「なんだかね、いいような気がするの。すべてが、良い方向に向いて、それぞれが自分で選択した場所で生きて死んだんだって、そう思えるの」

ちなみに、短編『案山子』の中に、明らかな間違いではないかと思う一文があるのだがどうだろう。


スポンサーサイト

Comment


Comment Form













非公開コメントにする
Trackback

Trackback URL