想元紳市ブログ

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剛しいら『座布団』『花扇』

知る人ぞ知るBL小説の名作、剛しいら著『座布団』と『花扇』。

今のBL主流のファンタジー小説は全く受け付けないのだが、これは一般の小説と比べても遜色ない筆力と展開で一気に読ませる。

三九亭初助と弟子である三九亭感謝を中心に、古典落語の世界を描いた連作集である。
人気真打ちとなった感謝が、今は亡き師匠の初助を思い出すという設定で、物語は展開する。

揃って容姿自慢が売りの三九亭一門。
落語に生涯を捧げ、男遊びは芸の肥やし、一生独り者を貫いたかに見える初助。
感謝は、今やテレビでも活躍する人気噺家。
かつての弟弟子で、今は家業の植木屋を継いでいる寒也とは長いパートナーの間柄だ。

まずBL云々の前に、昭和という時代、東京下町で繰り広げられる、古典落語の世界そのものが見事に再現される面白さ。
男にまつわるミステリアスな初助の過去、そして感謝と寒也の夫婦っぷりも、そんな世界感の中で描かれるので、ファンタジーとは無縁のリアリティを持って迫ってくる。

師匠と弟子の関係……、自ら師匠になって初めてわかる、かつての師匠の思い。
共に肉親の縁薄い二人の、寡黙な子弟の絆は全編を貫く柱である。

『花扇』『枕』『夫婦茶碗』の三編だけが初助の視点に移り、スピンオフ的な短編になっている。
描かれるのは初助の過去、初助が貫いた真実の愛の物語だ。

とりわけラストの『夫婦茶碗』の中で綴られる初助と男の最後の日々には、どうしようもなく目頭が熱くなってしまった。

「『銀さん…人生なんて高座みたいなもんですよ。さっと座って、賑やかにやって、笑わせて泣かせて静かに降りる。あたしは銀さんの噺を、最後まで聞きたい。四十男が泣いてもみっともないばかりだから、何があっても取り乱して泣いたりはしないから』
『泣いても初助は綺麗だ。最後に泣くと分かっていても、それでも俺といたいのか…』
『一人で笑うて暮らすより、二人、涙で暮らしたい…』
口にした途端、初助は泣きそうになった。
けれど年を無駄に重ねていない。涙はさらりと笑顔に化けた」

また、こんなシーン。

「『歳は忘れました。ついでに嫌なこともみんな忘れました。銀さん、どうせなら、面白、可笑しく暮らしていきましょうよ』
『そうだな。面白、可笑しく…』
だがもう大口を開いて笑える歳ではない。静かに微笑むくらいが関の山だ。
だから二人はただ口元を緩める。
笑っているのか、涙を堪えているのか、どちらともつかない顔になっていた」

まだ若い二人ではなく、それぞれ幾多の紆余曲折と波乱の半生を送ってきたいい歳の男二人だからこそ、しみじみとした時間がこの上もなく愛おしく思えてくる。

BL小説に出てくる男には、一度も魅力を感じたことはないのだが、この銀さんこと寺田だけは、ゲイ当人から見ても実に魅力溢れるいい男である。

 
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