想元紳市ブログ

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辻村深月『鍵のない夢を見る』

昨年の直木賞受賞作である。

一人称の女性を主人公にした5編からなる短編集。
共通点はそれぞれの物語の中心に一つの犯罪があること。

結婚、子育て、仕事、恋愛など、女性にまつわる言わば定番の物語だが、ここで綴られるのは、内面のネガティブな感情である。
狭苦しい日常の中で次第に鬱積し、屈折していく孤独や不満、焦り、それらが肥大化していった先にあるもの。

正直、読後には不快感が残るものもある。だが、まさに女性にしか書けない独特の世界に浸った。

同級生の母親の万引き癖を描いた『仁志野町の泥棒』。
育児ノイローゼになった母親がささいな騒動を巻き起こす『君本家の誘拐』。
放火事件の犯人と奇妙なわだかまりを抱くOL『石蕗南地区の放火』。
出会い系サイトで出会ったDV癖のある男との逃避行『美弥谷団地の逃亡者』。

『芹葉大学の夢と殺人』で描かれるのは、非現実的な夢を追い続ける駄目男に恋してしまった駄目女の悲劇だ。

「好きという魔物の感情」に取り憑かれた女が、どうしようもない男だと知りつつ、それでも執着を捨てられないのは、明らかに自己愛の裏返しである。

「私と雄大は、ともに自分にわかる言葉だけを頑なに話し続け、周囲の言葉をまるで理解しようとしない異邦人同士で、心細いから、寄り添い合った」

「夢を見るのは、無条件に正しさを信じることができる者だけに許された特権だ。疑いなく、正しさを信じること。その正しさを自分に強いることだ。それは水槽の中でしか生きられない、観賞魚のような生き方だ。だけどもう、私にはきれいな水を望むことができない。これから先に手に入れる水はきっと、どんなに微量であっても泥を含んでいる気がした」

何年たっても男は変わらず、女が望む愛情を示そうともしない。

「たった一つ。自分以外の者に執着すればいい。夢以外に失うのが嫌な、大事な何かを創れば、誰かを愛しさえすれば、幸せを感じることが、きっとできる」

女がたどり着く、そんな身勝手な結論。
それは己にこそ当てはまるとは考えもせず、やがて、自己陶酔の果て究極の選択をとる。

本当の被害者は女ではなく、男の方だったのかもしれない、とすら思えてくる。



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