想元紳市ブログ

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『アルバート氏の人生』

19世紀のアイルランド、ダブリン。
ホテルの住み込みウェイターとして働くアルバートは、実は男装した女性。
身寄りがなく、極貧の生活のために若いときから性別を偽り生きてきたのである。
必死で貯めたチップを床下に隠し、将来自分の小さな店を持つことだけが夢だ。

そこに、ペンキ塗り職人のヒューバートが雇われてくる。
彼も、実はアルバート同様男装した女性であり、それだけでなく仕立て屋の女と夫婦同然の幸せな生活も手に入れていることを知り、アルバートは我もと焦り、動き出す。
一緒に店を営もうとウェイトレスのヘレンに唐突な求愛をするが、もちろんヘレンはそれを受け入れるどころか、ホテルの悪ぶれた使用人と恋仲で、しかも妊娠までしていた。

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この映画を最初に観たとき、自己の夢のためには相手の感情を省みないアルバートの行動が不可解でしかなかった。
結局、貧困がいかに人間の心を荒廃させるのか、そのため、ついに真実の愛を知りえなかった人間の悲劇を描いた映画だとしか思えなかった。

しかし、鑑賞後には、なぜかしみじみとした余韻が残る。
それどころか、二度目に観たときには、アルバートの不器用な一途さが、この上なく尊いものにすら思えてきたから不思議だ。

確かにヘレンを本来の意味で愛していたのかは疑問だが、他者を欲し求める感情を、現代の恋愛の定義だけで捉えていいものか、ましてや19世紀のあの時代を考えると尚更のこと。

アルバートが本物のレズビアンであったのかは曖昧なまま。それはおそらく、本人にとってたいした意味をなさないものだからだろう。

ヘレンのようないかにも女という生き方への憧れ、写真でしか知らない実母に対する思慕、だからこそ捨てきれない自己の母性など、隠された複雑な感情が表に結晶したものがヘレンに対する思いであり、それはそれで純粋な一つの愛の形に他ならない。

グレン・クローズは、ブロードウェイでもアルバートを演じ、映画化にあたっては製作、共同脚本、音楽の作詞まで手掛けた。
もちろん主演として、アルバートの抑圧された人間性を圧倒的な存在感で演じきっている。
その男装ぶりは、『イエントル』のバーブラ・ストライサンドや『ボーイズ・ドント・クライ』のヒラリー・スワンク以上。

またヒューバートを演じたジャネット・マクティアが巧い。
ヒューバートは、物語の中で唯一真実の愛を知る人物で、暗くよどんだ結末に、一筋の光をもたらすのも彼である。

監督のロドリコ・ガルシアは、『美しい人』『愛する人』『彼女を見ればわかること』など、ひたすら女を描き続けてきた人で、もしやと以前から思っていたが、今回もこのテーマ、さらにホテルの客に意味深な男色の公爵を登場させるなど、益々怪しい。


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