想元紳市ブログ

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白石一文『火口のふたり』

主人公の賢治は、妻子と別れ、会社も倒産して自殺すら考えた、いわば人生に挫折した中年男である。
いとこの直子の結婚式に出席するため、久しぶりに九州に帰郷する。
直子が東京に住んでいた若かりし頃、二人は愛欲に溺れた関係にあった。

十数年ぶりに再会した二人は、再びセックス三昧にのめり込む。
直子の新しいベッドで、電車の中で、路地の片隅で、ねっとりとした官能描写が続き、少々生理的嫌悪感すら覚える。

それゆえか、小説の評価は幾分賛否が分かれているようだが、自分は好きだと思った。

「たかだか40年余りとはいえ、決してうまく運んでいない我が人生」

賢治の喪失感は、同世代の男として他人事ではない。
現に、著者の経歴自体も、賢治と若干重なるものがある。

後半になると、物語は俄然、別の色合いを帯びてくる。

東日本大震災を経験して数年を経た、つまり、今の日本の置かれている状況そのものが、物語の主人公にとって代わるのだ。
 
「個人の力ではどうにもならないことがあり、それによって人生なんて、それこそどうにでもいいように翻弄されるのだと俺は知った」

富士山の大噴火が予知され、1週間後に政府が緊急発表を行うとの機密情報を二人が知るという、仮想の結末が用意される。
地震と富士山爆発についての客観的解説が、長々と続く。

「俺たちはかつて経験したことのない波乱と混迷の時代に突入する。この先、どのようなことが起こるのかは誰にも予見できないし、実際、巨大地震、巨大津波、巨大噴火が、いつ何時どこを襲ってもおかしくはない。そんな俺たちにとって、今後は自分の命一つを守ることすら容易ではなくなるだろう。だとすれば、十年先、二十年先のために計画を立てる人生などもはやあり得ない」

自然の力に比べ、人間の営みなど無力だという、目の前に厳然と立ちはだかる事実。
そうした状態下で、今をどうやって生きるのかという、シンプルな問いに直面するのだ。

が、ここに、明確な答えが提示されているわけではない。
賢治と直子も、セックスという刹那的快楽に逃避しているにすぎず、それでは決して救われないことを、ただ知るだけだ。


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