想元紳市ブログ

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藤野千夜『おしゃべり怪談』

藤野千夜、初期の短編集『おしゃべり怪談』を再読。

ありふれた、あるいはわずかに奇妙な日常に、ときたま顔を出す心の歪みや揺れを、彼女独特のさらりとしたタッチで切り取った4編。

特に、最後に収められた『ラブリープラネット』が秀逸である。

主人公は東京で一人暮らししている大学4年生のキリコ。
3カ月前、前の恋人から振られてすぐにつきあい出した、恋人ホリイがいる。

ここでも、描かれるのは、やはり淡々とした日常だ。
ホリイと家で鍋をつっついてじゃれ合ったり、実家に帰省したり、姉の家を訪ねて近所のボケ老人の話を聞いたり、姉と一緒にプールに行ったり、といった取り立てて珍しくもない、平凡な日々。
たった一つ、姉が実は昔、兄だったという事実をのぞいては……。

兄は9年前に実家を飛び出して行方不明になり、再会したときには性転換手術を終えていたのだ。

「自分の好きなものが自分のからだには要らないというのはどういう心境だったのか想像してみた」

まるで藤野千夜の分身かとも思われるその姉を、キリコはあるがまま受け入れているかのように、一見、見える。
というのは、キリコは、ドライで何事にも冷めていて、感情の起伏がほとんどないからである。

逆に、姉は行動的でオープン。
実際、38.9度の高熱が出たと電話してくる姉に対し、キリコは風邪っぽいと感じても36度にも満たない低体温症だ。

そして、もう一つ大事な登場人物が、前の恋人が残していった一匹の金魚、ハナブサ。
最近、何やら頭におかしな白い斑ができている。
金魚屋に相談すると、病気だから水槽の水温を上げ、さらに薬浴させるようにとアドバイスされる。

ハナブサとキリコはよく似ている。
実はキリコには、少し病んだ、一つの奇妙な習慣があった。
「ばーか」と、自分で自分の家の留守電にメッセージを残すのだ。

やがて、ホリイも、キリコのことを何か歪んでいる言って去っていく。

「誰かがいなくなってしまうと、もういなくなられることはないと安心してしまう」

「紫外線というのはどうして目に見えないのだろうかと考え、目に見えないくせに存在しているものの多さにうんざりした」

ハナブサの病気は次第によくなるが、果たしてキリコはどうか。

小説の最後に、恐ろしい一文が置かれている。

「本当は好きだったなんて都合よく悲しむためだけに、姉が死ねばいいと何度も考えたことを思い出していた」

はじめてポロリと吐き出されたどす黒い感情に、一番驚いているのは、実はキリコ自身かもしれないし、そんなとりとめのない哀しさに閉じ込められた自分を「ばーか」と呼んでいるのである。


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