想元紳市ブログ

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『愛、アムール』

パリに暮らす元音楽家の老夫婦、アンヌとジョルジュ。

愛弟子のコンサートを鑑賞した日の翌日から、突然、妻は病で壊れ始める。
脳梗塞あたりを発症したのか、その後の手術も失敗し、半身不随の体になって退院する妻。
それから、夫による自宅介護の日々が始まる。

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老老介護は、とりわけ高齢化社会の進むここ日本において、全く目新しいテーマではない。
この映画を特別なものにしているのは、ひとえにミヒャエル・ハネケ監督の芸術的アプローチにある。

ハネケは、一切の感情を排したような、冷めた視線で、淡々と二人の時間を見つめ続ける。
汚いところも見せ、老いた体もさらす。

さらに、様々な解釈が可能な隙間をあちらこちらに残し、意図的にわかりにくくしている。

重要なシーンは、ほとんど省略されているか、暗示されているだけ。
数少ない決定的なシーンですら、それが本当に起こったことなのか、あるいは夢や妄想の世界なのか、どちらにもとれる曖昧さを残す。

夫婦はいかに老い、互いの死を向かえ入れるべきなのか、という問いには、それぞれが考え、答えを見出す以外にない、ということか。

本作を、単に夫婦の深い愛の物語などと述べるのはあまりにも安易だ。

退院してきた妻は、夫に有無を言わせず、ニ度と病院に戻さないことを約束させる。
とても達者には見えない夫による献身的な介護はあまりに痛々しく、妻の意思は、随分身勝手なものであったと言わざるを得ない。
さらに、そんな両親を放置し、たまにしか帰ってこないくせに、口だけは立派なことを言う一人娘。
最後に夫の下す決断も、利己的だと考える人も少なくないだろう。

関係の根底には、おそらくフランス流の徹底した個人主義が流れており、それを前提として観る必要があるのだろう。

映画館は、中年以上の男女であふれていたが、配給会社の間違った宣伝のおかげで、心温まる夫婦愛を期待していった人は、随分肩透かしを食ったに違いない。

印象的なシーンがある。
窓から、室内に二度、一羽の鳩が紛れ込む。
夫は、一度目は追い立てて窓から逃がし、二度目は上から毛布を被せて捕え、くるんで胸に抱きしめる。

二度目の行為は、後に夫が妻に対して行う、ある行為と重なる。

とすると、鳩は、もしかして生命そのものを象徴しているのかもしれない、と思えてくる。

 
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