想元紳市ブログ

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折口信夫『口ぶえ』

明治生まれ、大正から昭和にかけて活躍した、民俗・国文学者の折口信夫は、日本を代表するインテリ・ゲイの一人であろう。

折口が中学時代を回想した、自伝的小説にあたるのが『口ぶえ』だ。

欠字部分があったり、最後も「前篇終」とあるにも関わらず後篇はなかったり、と習作であることは否めないのだが、それでも、何とも言えず不思議な味わいがあった。

「学校の後園に、あかしやの花が咲いて、生徒らの、めりやすのしやつを脱ぐ、爽やかな五月は来た」

旧字体ゆえにどうしてもゆっくりと文字を追わねばならず、その結果、独特の短い文章のリズムと相まって、なんだか心地よい気持ちにさえなってくる。

内容そのものは、じっとりと湿度を帯びて、鬱々としている。
中学三年の漆間安良を主人公に、中心になるのは、上級生の岡沢と同級生の渥美という二人に対する、微妙な思いだ。

同性に対する特別な感情に目覚める安良。
憧れと嫌悪が曖昧に入り混じった感情を、どのように理解していいかわからない、多感な季節を描いた小説、だと自分は読んだ。

「あゝけがわらしい心を燃やしてゐる間に、丹誠した草花は、みな枯れてしまった。美しい脆い心も、その草花と一処に枯れてしまつたのである。彼は、茶色になつて萎え伏した草のうへに、まざまざと荒んで行つた少年の心のあとを見た。ぼうとあたりが曇つて来て、安良の瞼はもちこたへられなくなつた。涙がぼろぼろと、草の葉にかかる」

「安良は幾度か、上級生から手渡された、さつきの手紙を開封しかけては、ためらうた。豊かな楽しい予期にまじる、心もとない哀愁に、胸はおそろしく波立つた」

死への憧憬に囚われる渥美と共に手を取り合う結末には、陶酔とも言える、強烈なナルシシズムを感じた。

折口は、もちろん生涯独身で、弟子の藤井春洋を養子に向かえた。
事実上の婚姻であった、とも言われている。
春洋の死後、折口の最期を看取ったもう一人の弟子、岡野弘彦は、現在も歌人として活躍している。


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