想元紳市ブログ

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クエンティン・クリスプ『魔性の犬』

『魔性の犬』は、イギリスを代表するゲイ・セレブ、クエンティン・クリスプの著作の中で、おそらく日本で唯一翻訳されている小説である。

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1999年に90歳で亡くなったクリスプの存在に再びスポットライトがあたったのは、2009年、彼の半生を映画化した『イングリッシュマン・イン・ニューヨーク』の公開がきっかけだろう。
日本でも東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映されたのだが、自分は見逃してしまい、今もそれをひどく後悔している。

クリスプを演じたのはジョン・ハート。
彼は、クリスプを一躍有名にした1975年のTV映画”The Naked Civil Servant”でもクリスプ自身を演じた。
当時のイギリスで人気を博した本作は、クリスプ本人による皮肉に満ちたイントロダクションだけでも観る価値がある。

作家、イラストレーター、俳優、モデルと、まるでジャン・コクトーさながらの、多才で知性あふれるゲイだったことは間違いない。
映画『オルランド』ではエリザベス女王を演じ、『フィラデルフィア』にもカメオ出演していたとは知らなかった。
スティングの名曲『イングリッシュマン・イン・ニューヨーク』は彼をモデルにしており、PVには本人が出演している。

『魔性の犬』は1979年の作で、日本では1982年に発行されたものの、ほどなく絶版になったのも納得の奇妙な小説だ。

ストーリー自体、怪奇極まりない。

お屋敷に一人暮らしだった、没落富豪のエムズ卿が亡くなり、遺産は愛犬フィドーはじめ飼っていた動物に残されることになる。
使用人夫婦、財産の監査役弁護士、街に立つ娼婦とその夫が繰り広げる物語を一言で説明するのは難しい。

原題の「チョグ」とは、犬のフィドーと娼婦レイナとの間に生まれた、赤ん坊の名前だ。
どんな外見かは明確に記述されているわけではないのだが、実にオカルトめいた、おぞましい世界が展開するのである。

まさにタブーとゴシック・ロマンに彩られた寓話であり、しかし、その偽悪趣味は明らかにゲイ的感性に通じる。

クリスプならでは含蓄を感じさせるのは、例えば次のような一文。

「言葉をたくさん知っている人間は、肉体を傷つけられない限り、決して傷つくことがない」

不思議なのは、翻訳者による解説が、一切、クリスプの同性愛について触れていない点だ。
「手元にあるのはクリスプ自筆の掴み所のない略歴だけだが」と記した上で、簡単なプロフィールをなぞっているのみ。
その容姿についても「青々と剃り上げた髭の跡どころか、薄く産毛の生えただけの年齢不詳の顔」と、まるで女装ゲイのことを知らないとでもいうような形容は、当時の情報不足による無知というには、少しお粗末である。


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