想元紳市ブログ

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田口ランディ『サンカーラ この世の断片をたぐり寄せて』

作家の白石一文が絶賛したのが、本作。

「これは田口ランディの代表作というだけでなく、今この時代に我々が持つべき精神的な強さとは何かをしっかりと伝えてくれる」

『サンカーラ』とは、著者いわく「この世の諸行を意味する。私という意識の経験の蓄積、様々な印象を寄せ集めたモザイク」。
ブッダについて書きたい、というのがそもそものきっかけだったようだ。

東日本大震災後の日本で考えたこと、行動したことを、実在の人物との交流の中に綴った8編。
著者はこれを小説の枠組みの中で書いたという。

大地震と津波、原発と放射能の問題を中心に、広島の原爆、水俣病にまで遡り、さらに、アウシュビッツやカンボジアのキリングフィールド、グラウンド・ゼロを訪ねたときの記憶を手繰る。
共通するのは、不条理な暴力によって引き起こされた破壊だ。

それが、むしろ個人的な内面の破壊という観点から捉えられている点に、本書の特質がある。

背景にあるのは、著者の家族の問題である。
実父がアルコール依存症のDVだったこと、その結果、母が深刻な神経症になったこと、同居していた義父母の相次ぐ死。
とりわけ、無職で家族から疎まれ、10年の引きこもりの末、40代で自殺した兄のこと。
腐乱した兄の死体を見たことは、ものの見方を根本から転換させたという。
そのあたりを綴った最終章の『死と甦り』は圧巻。

世の中の暴力的な破壊と個人的な体験が並列に綴られ、読み進めていくうちに、いつしか壮大な精神世界に導かれる。
否応なしに、人が生きるとはどういうことなのか、という問いが突きつけられる。

心に残った文章。

「優先順位を間違うのだ。大切なことをないがしろにしてしまう。注意力が足りなくてサインを見逃してしまう。そんな自分の弱さが情けない。日常のなかにたくさんのサインが隠されている。自分がなにをすべきかを示唆してくれるサインだ。でも、それに気づかず、無視してしまう。そういうことの繰り返しが重なることによって、人生は不必要に回りくどく、意味不明になっていく」

「どんなひどいことが起こっても、人間の心には自然そのもののような強さがあり、光が射し、そよ風が吹き、冬のあとには春が来るし、夜はいつか朝を迎えてしまうのだ。いやおうもなく変わってしまう。だから、私たちにできることはその変化を受け入れ、崖っぷちで踊ること」

著者は、自分の身を削り、血を流しながら本書を綴ったに違いなく、それが読者の心に強く訴えないわけがない。


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