想元紳市ブログ

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『幸せな哀しみの話』

「幸せな哀しみ」とは、成熟した大人の感情である。
本アンソロジーに収められているのも、まさにそんな大人の味わいに満ちた作品ばかりだ。

選者は何冊かアンソロジーを出版している山田詠美。
セレクションはもとより、山田自身による解説を読むのが楽しみである。

中上健次、遠藤周作、八木義徳など、山田お馴染みの作家の他、初めて読む、前衛芸術家・草間彌生の小説もあった。

『クリストファーの男娼窟』は、草間の作り出す、性的暗喩に満ちたオブジェの世界を彷彿とさせる文体と雰囲気に酔いしれた。

ニューヨークの有名なゲイタウン、クリストファー・ストリートに生きる、黒人の美しい男娼ヘンリー。
ヘンリーを買った白人男性のグリーンバーグ、男娼を斡旋する中国人の女ヤンニーとの関わりを中心に、哀しみに満ちた夜の花の煌びやかだが儚い輝きを、美しくも残酷に切り取った短編だ。

「隠花植物にも似た人々がうごめくこの場所で、わずかな光によって最大限に自分をきらめかせる、宝石のような存在だ。(中略)私は、ひとりの男娼を、こんなにも美しく哀切に描いた小説を他に知らない」(山田)

河野多惠子著『骨の肉』は、男に捨てられ一人残された部屋で、男との官能的な時間を反芻する女の話だ。
彼女が思い出すのは、決して肉体的な情交ではなく、一緒に生牡蠣や骨付き肉を食べた記憶である。

「食べるという日常の行為が、小説のエロティシズムの魔法によって、ほの暗い非日常へと変わって行く。そこに遺された骨と殻の残骸の中で、やはり女は、幸せで、哀しい」(山田)

本アンソロジーの中にある「幸せな哀しみ」は、マスメディアを通じて巷に氾濫した、あまりにわかりやすい哀しみ、優しさ、薄っぺらい幸福とは真逆のものである。


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