想元紳市ブログ

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沼田まほかる『彼女がその名を知らない鳥たち』

今、静かなブームを呼んでいる沼田まほかるの『彼女がその名を知らない鳥たち』。

読む前から、彼女の経歴に興味を持った。

20歳で結婚、34歳で離婚した後、実家の寺を継いで出家し僧侶となる。
44歳のときに友人とコンサルタント会社を設立するが10年あまりで倒産、57歳のときに書いた処女小説がホラーサスペンス大賞を受賞してデビューという、かなり異質な経歴の持ち主である。

物語は、じっとりと湿度高く、どす暗く、執拗に渦巻く感情の吐露が延々と続く。
にも関わらず、ひとたび読みだすと、ページをめくる手を止められない。

主人公は、33歳の十和子。
十和子の視線で、3人の男との関係が綴られる。

捨てられて8年たっても忘れられず、未だ偏執的に想い続けている男、黒崎。
デパートに勤務する水島とは、ふとしたことがきっかけで不倫の関係を持つようになる。
そして、同棲して6年になる、15も年上の陣治。

ある日、黒崎が行方不明になっていることを知り、十和子は、陣治が黒崎を殺害したのではないかと疑い始める。

醜悪で口臭はヤニ臭く、汚い食べ方をし、トイレを小便で汚す下品な男、陣治。
十和子の目を通して描かれる陣治は、読者にすら生理的嫌悪感を抱かせる。

だが、十和子も、常軌を逸した妄想やエゴイストぶりなど、女の心のダークな部分があまりに露骨で、全く共感できる主人公ではない。

そんなふうに、読み進めても一向に好きになれない二人の、実は究極のラブストーリーだったとわかるのは、最後のページを読んだときである。
読み終えた後に残る心の動揺は、有無を言わせぬ、凄まじいまでの愛の形を見せつけられるからだ。

著者へのインタビューに、次の言葉を見つけた。

「自分の作品を振り返ってみると、人間の一瞬の輝きを書きたくて、どろどろとした暗い面ばかりを出してきたのかもしれない。筆力の許す限り、闇の部分を深く、リアルに書きたいと思っています」

読者が最後に圧倒されるのは、400ページ弱を読み進めた後に辿り着く、この一瞬の輝きが、あまりに眩しすぎるからである。


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