想元紳市ブログ

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飛鳥高『細い赤い糸』

飛鳥高著『細い赤い糸』は、古く昭和37年の探偵作家クラブ賞を受賞した、ミステリーの隠れた名作だ。

4つの短編から構成され、それぞれで全く別の殺人が描かれる。
汚職発覚を恐れる公団に勤める男、仲間と強盗事件を起こす若者、恋人の結婚話を妨害しようとするOL、院長争いに巻き込まれる医師。

共通点は、4人の殺害方法だけ。
それが最後に一本の糸で繋がるトリックは、鮮やかというほかない。
おそらく読者は、その瞬間まで、真犯人を見つけることは難しいだろう。

綿密に練り上げられた構成はもちろん、世の中は決して劇的なものでも、ましてや打ち上げ花火のように緻密に計算されたものでもないという、著者の冷めた人生観が根底にある。

道を歩いている大勢の人を見て、一人の刑事が呟く。

「その一人一人が、今何の用事で歩いているのかとても分かりはしない。暇つぶしに歩いてる者もいるだろう。しかし中には、のっぴきならない運命を背負って歩いてる者もいるだろう。とても、みんなは分からないよ」

「大体ね、こういう生活をしていると偶然の持つファクターの方が多いよ。人の運命を左右するのはね」

本作が辿り着く場所は、そんな偶然のもたらした闇である。

読了し、再び第一章「谷間の人達」に戻ると、冒頭に見事なほど物語のテーマと結末を暗示している文章が置かれていたことに、愕然とする。

「日が少し長くなっていた。
駅の巨大なコンクリートの庇の下へ向って、勤め帰りの人の群れが、よく訓練された動物のように、四方の歩道から、信号のある所を横切って、集り流れこんでいた」

最近散見する、映画化やドラマ化目的の量産作家によるスカスカのミステリーとは、明らかに異次元の味わいがあった。


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