想元紳市ブログ

2017年09月 ≪  12345678910111213141516171819202122232425262728293031 ≫ 2017年11月
TOP ≫ 白石一文『ほかならぬ人へ』

白石一文『ほかならぬ人へ』

2年前の直木賞受賞作である白石一文著『ほかならぬ人へ』を読んだ。

富豪一家の御曹司である主人公、宇津木明生と三人の女。
恋人から妻となるなずな、親が決めた許婚だった幼馴染の渚、会社の上司である東海さん。  

テーマは「運命の人というのは本当にいるのか」。

通俗的な、一歩間違えれば少女趣味になりがちなテーマを、著者は敢えて肯定的に描こうとする。

そこには、例えば流行りのライトノベルにあるような甘さは皆無で、どこまでもリアリティーのある、大人の心のキャッチボールがせつなかった。

明生は、裕福な家庭になじめず、優秀な兄たちへの劣等感もあって、己の存在価値を見い出せない。

「この世界の問題の多くは、何が必要で何が不必要かではなく、単なる組み合わせや配分の誤りによって生まれているだけではないだろうか」

妻のなずなは、かつての恋人である真一のことが忘れられず、家を出る。
その後二人でじっくり話し合い、明生がこれで復縁できると自己満足に浸っているところに、ふいに正式な離婚届と手紙が届くのだ。

「やはり明生さんのような人には、私や真一さんみたいな人間のことはよく分からないんだろうと思います。この前、お話ししてみてそう思いました」

これを見て明生はもちろん大変な衝撃を受けるのだが、なずなの言う本当の意味に気づくのは、ずっと後のこと。

「ベストの相手が見つかったときは、この人に間違いないっていう明らかな証拠があるんだ」

明生がついに証拠を掴かむのは、その対象が失われてしまってからである。

愛と喪失の狭間に横たわるのは、「余りにも深いかなしみ」でしかないのだろうか。


スポンサーサイト

Comment


Comment Form













非公開コメントにする
Trackback

Trackback URL