想元紳市ブログ

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『人生はビギナーズ』

マイク・ミルズ監督自身の実体験を映画化した『人生はビギナーズ』。

母親が死んで数年、75歳の父親が突然、息子にカミングアウトし、これからの余生をゲイとして楽しく生きたいと告げる。

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ハートウォーミングなライトコメディーだと思って観ると、少々戸惑う。
例えば『トーチ・ソング・トリロジー』や『リトル・ミス・サンシャイン』のように、笑えて、最後は明るく前向きな生き方の勝利を讃えて終わるものだと思っていた。

ところが、本作の雰囲気は随分違う。
なんと言っても、主役であるはずの父親ハルは映画が始まった時点で既に死んでおり、息子オリヴァーの回想の中においてしか登場しないのだ。

テーマは、オリヴァーの孤独と喪失感である。
父と母は本当に愛し合っていたのか、二人が心から愛し合っていなかったとすると、間に生まれた自分は何なのか、という人生の疑問から、愛というものに懐疑的で、誰とも深い人間関係すら築けないでいる。

そんなオリヴァーが、ある日、少々風変わりな一人の女性アナと出会う。
閉じこもっていた殻に、小さな風穴が開く。
父の生き様や言葉を思い出し、反芻するうちに、ほんのささやかな一歩踏み出す勇気を持つに至る物語なのだ。

印象に残る台詞がある。
アナが、ホテルの部屋から見える高層マンションを指してこう言う。

「あそこの住人の半分は物事を悲観的に捉えて生きている。そして残り半分は、魔法を使えると信じている人々。両者の対立は深刻よ」

聞いているオリヴァーは、明らかに前者の人間だ。
さらに言うならば、二つの相反する生き方は、一人の人間の心の中に共存するものであり、人は両者の狭間で日々葛藤しながら生きているのではないだろうか。

この映画は、監督のパーソナルな心象風景の素描である。
観終わったあと、じんわりと温かなものが心を満たしているのを実感できるのは、監督のそんな真摯さからくるものかもしれない。

 

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