想元紳市ブログ

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桜木紫乃『ラブレス』

知人からすすめられ手にした、桜木紫乃著『ラブレス』。

ここまでおもしろくする必要があるのか、とも思えるドラマチックな展開で、一気に読んでしまった。

物語は一人の瀕死の老婆が、北海道釧路の町営住宅で発見されるところから始まる。
意識は既になく、手には一つの位牌、生活保護で暮らしていた老婆の名は、杉山百合江。
これは、百合江の数奇な一生を描いた物語だ。

開拓地の極貧の家に生まれ、奉公に出されるが、歌が好きで旅回りの芸人一座に飛び込んだことから、いよいよ百合江の波乱の半生がスタートする。

「この世は生きてるだけで儲けもんだ」というのが、女座長の教え。

様々な事件や辛苦に遭遇しながら、流されるまま、なんとかやり過ごしていく百合江の生き方には、反発を覚える人もいるかもしれない。
現に、妹の里実や娘の理恵は、百合江が理解できない。

「生まれた場所で骨になることにさほどの執着心を持たせない。それでいて今いる場所を否定も肯定もしない。どこへ向かうのも、風のなすままだ」

不幸も幸福も長く続かないとわかっていることが、百合江の人間としての強さである。

百合江が、その時々で関わる3人の男。
同じ一座の女形だった宗太郎とは娘をもうける。
娘のために、結婚するマザコン男の高樹。
離婚し、娘を育てるため必死に働く百合江を陰で支える石黒。

転勤で北海道を去る石黒のために、働いていたクラブのステージで百合江が歌うのが、沢田研二の『時の過ぎゆくままに』。

「もしも二人が愛せるならば、窓の景色もかわってゆくだろう……」

まるで映画の名シーンのようだ。

最後、死に瀕した百合江の傍にいる老人の正体がわかったとき、里実も理恵も、そして読者も、初めて百合江の生き様を心から肯定する涙にくれることになる。


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