想元紳市ブログ

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河野多惠子『逆事』

河野多惠子の短編小説『逆事』はこう始まる。

「人は満ち潮どきに生まれ、干き潮どきに亡くなるという」

両親から教わったという、この謂れに囚われた著者が、両親や叔母、さらには飼っていた小さな蟹の死に接する中で、思いを巡らす。

珍しくテレビに出演し、本作のことを語った著者の言葉が印象に残っていた。

宇宙と人間の営みは密接につながっている、月が人間の生死に影響を及ぼしていることは間違いない、といったような内容だった。

かつては、サディズムなど歪な性愛を描いた女流の大家が、このような意識を持っていることは意外な気もしたが、同時に共感もした。

作中では、何人かの文豪の死についても触れている。

著者の敬愛する谷崎潤一郎と佐藤春夫は、干き潮どきに亡くなっている。
しかし、三島由紀夫は満ち潮で亡くなっている。

「それも満ち潮に変わったばかりの時刻ではなく、絶頂へさしてどんどん進んで行っている時刻で亡くなっているのである」

三島のことを「択びすぎた作家」だとし、その死もまた同じように択んだ死であったと評する河野。

つまり「逆事」にあたるというわけだが、著者は別にその是非を問おうということではない。

生と死の狭間に横たわる、ミステリーとも言える隙間をそっと覗き見るだけである。
諦観に近い、穏やかで、静かな眼差しがむしろ心地いい。


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