想元紳市ブログ

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西村賢太『苦役列車』

西村賢太の芥川賞受賞作。

無頼派を地で行く、徹底した私小説。
主人公は全て西村賢太自身という、圧倒的リアリティ。

どうしても本人の強面な容姿を想像しながら読んでしまい、小説の読み方として邪道ではないかと思わぬでもないが、それゆえの強烈な生々しさを伴うのも事実だ。

日雇い労働でその日暮らしをする19歳の貫多の自堕落で鬱屈とした生活。
そんな生活の中でも、貫多の、つまり西村賢太の自虐的ともみえるナイーブな繊細さが際立つ。

「かかえているだけでは厄介極まりない、自身の並外れた劣等感より生じ来たるところの、浅ましい妬みやそねみに絶えず自我を侵蝕されながら、この先の道行きを終点まで走ってゆくことを思えば、貫多はこの世がひどく味気なくって息苦しい、一個の苦役の従事にも等しく感じられてならなかった」

芥川賞の選考では、賛否両論あったようだが、山田詠美の選評がひっかかる。

「私小説が、実は最高に巧妙に仕組まれたただならぬフィクションであると証明したような作品」

徹底的に突きつめた私小説は、もはや「私」ではなくなるということか。

自分は表題作より、収録されたもう一編『落ちぶれて袖に涙のふりかかる』の方が好きである。

貫多は、既に40歳を越えており、小説を数編発表後、最新作が川端康成賞の候補になっているという境遇にある。

『苦役列車』では得体のしれなかった、自身の内側に巣くう膿が、ここでは作家として認められたいという具体的な渇望の形をとっている。

ぎっくり腰の激痛に悩まされながら、受賞したいと験担ぎまで仕出かす主人公の姿は、滑稽なほどだ。

19歳と40歳の間の空白は、『どうで死ぬ身の一踊り』など彼の他の小説で埋めることができる。


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