想元紳市ブログ

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ポーリン・ケイル『映画辛口案内』

このブログでは、悪口だけの文章を書かないことを、自分なりのルールにしている。
賢明な判断だったと思う。
本書を読むと、批判の文章こそ、より高尚で知的なセンスが要求され、深い知識と教養に裏付けられている必要があることに、気づかされる。

ポーリン・ケイルはアメリカの有名映画評論家で、2001年に亡くなるまで、最も影響力のある批評家の一人だった。
本書は、1983年から85年に雑誌ニューヨーカーに発表した映画レビューを集めたものである。

タイトル通り、どんな名画であろうと、演技派俳優であろうと、気に入らないものは容赦なく批判し、逆に低俗な娯楽映画であろうと、いいものは躊躇なく誉める。

その辛辣さは、独特の毒を持っていて、読み物としても絶品のおもしろさだ。

例えば、『シルクウッド』のメリル・ストリープの演技については、「『ディア・ハンター』で脇役を演じた彼女は、とりわけ印象的だった。しかし、主役を演じるとき、彼女はわれわれに人工的な製作物を与え続ける」と、その本質を突く。

愛と追憶の日々』でシャーリー・マクレーン演じたオーロラについても手厳しい。

「オーロラは少々頭がおかしい。(中略)べつにシャーリー・マクレーンの演技をけなしているわけではない。この役には、これ以外の演じかたがあるとは思えない。オーロラはギャグを生み出すための、困りものの妖精でしかないのだから」

『恋におちて』のデ・ニーロとストリープに関しては、「このふたりのスターには、フランクとモリーという名は要らなかった。おたがいを、虚無と虚無と呼びあえばよかった」と、中身のない主人公二人を論う。

唯一取り上げられている日本映画は市川崑の『細雪』。

「市川は瞬間をとらえようとしてはいない。むしろ、瞬間の過ぎさる跡をとらえようとしている」と指摘し、「この映画は原作より『鍵』のような谷崎の他の小説に近い」と博識の深さはただならぬものを感じさせる。

不思議なのは、ひどい毒舌で否定されている映画でも、彼女のレビューを読んだあとは、なぜかその映画を観て、自らの目で確認したくなる点だ。

彼女はときとして「私の好きな欠点は」という言い方をする。

どんなに辛辣に書こうと、そこには映画に対する深い愛が込められているのである。

これぞ、本物の映画評論家の持つ、プロの腕前以外の何物でもないだろう。


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