想元紳市ブログ

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『ブラック・スワン』

ヒット中の話題作『ブラック・スワン』。
サイコ・スリラーだとは知らないまま観たのだが、上質な心理劇を堪能した。

新解釈の『白鳥の湖』で、悲劇の白鳥と邪悪な黒鳥の両方を演じる主役に選ばれたニナ。
ところが、舞台監督から、白鳥は問題ないが、黒鳥を演じる力が足りない、ダークな感情表現ができていないと指摘され、「まるで不感症の踊りだ」とまで酷評される。

追い詰められたニナは、役作りに極度に没頭するあまり、狂気の中で現実と妄想の垣根を失い、精神的に破綻していく。
さらには、封じ込めてきた自らの性的欲求や母親との確執など、心の闇がじわじわと表面化してくる。

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ニナを演じたナタリー・ポートマンがインタビューで、一人の女性が大人の女性へと成長していく姿を描いた映画だと語っていた意味は、観た後だとよくわかる。

厳しい競争の世界に生きている人間は、誰もが多かれ少なかれ乗り越えなければならない、心理的な葛藤、つまり、自信の喪失、不安感、恐怖、野心、ライバルに対する嫉妬、さらに性的なアイデンティーの確立など、この映画は、それらを濃い濃度で、デフォルメして見せる。

どこまでが現実で、どこまでが幻想なのか、境は曖昧で、観る人によって様々な解釈が可能だ。

自分は、やはりほとんどの出来事が、ニナの創りだした妄想だと観たほうが面白いと思う。

厳格で偏執的な母親すら、本当に今も存在しているのかさえ、よくわからない。
ライバルのリリーは、もう一人の自分に他ならない。

ついに迎えた上演の初日には、舞台監督にこう言われてしまうのだ。

「自分を妨げているのは自分自身だ」

いつも白っぽい洋服ばかりを着るニナに対し、リリーは対照的に黒ばかり着る。
ドラッグによる幻覚の中で、ニナがリリーと性的な交わりを持った翌日から、二人の着る物が微妙に変化するのも象徴的だ。

性的に未熟で、自我が未発達、おそらく同性愛的性向を持っていると思われるニナ。
先輩ダンサー、ベスの楽屋から口紅やイヤリングを盗む行為は、単なる憧れ以上のものである。

考えてみれば、リストカットを繰り返す自傷癖、手に血が滲むまで洗い続けるという強迫神経症、嘔吐を繰り返す拒食症などは、現代の若い女性の間で、格別珍しい病気ではない。
ニナが内面に抱えた闇は、決して、非現実的な世界ではないのだ。

「鏡」は、この映画のテーマを端的に表現するモチーフ。
砕け散った鏡の破片で、自らを傷つけるという行為は、過去の自分との決別であり、まさに物語の決着として完璧である。

主演女優賞を総ナメしたポートマンにばかりスポットがあたるが、バーバラ・ハッシーの演じた過保護の母親、ウィノナ・ライダーの演じた引退を強制される先輩ダンサーの不気味な存在感、そして二人の怪演が、本作を何倍も奥深いものにしている。

 

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