想元紳市ブログ

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リディア・デイヴィス『話の終わり』

リディア・デイヴィス著『話の終わり』は一風変わった視点で書かれている。

訳者の説明を、そのまま引用したい。

「ここには何人もの<私>が登場する。小説の中で実際に恋愛を体験している<私>と、それについて語っている<私>、その小説を書いている小説家の<私>、さらにはその枠組みのもう一つ外にいるはずの<私>、つまりはこの本の作者であるリディア・ディヴィス。読み手は幾重もの<私>の森の中に迷いこんで、いったいこれはフィクションなのかノンフィクションなのか、小説なのかエッセイなのか、自分がいったいどこに立ってこれを読んでいるのか、わからなくなってくる」

とはいえ、決して難解な小説ではない。

テーマは一言、「いなくなった男の話」である。

教師である<私>。
歳の離れた教え子との恋愛が破局し、1年たったあとも、ストーカーギリギリの行動と執着を続ける女の話だ。

男との思い出を、まるで飴玉を口の中でなめるように反芻し、ときに口から取り出して、様々な角度から眺め、また口に入れて少し噛んでみたり、といった行為を延々と繰り返す。
飴玉がついに溶けてなくなると、それでも飽き足らず、自らの肉や骨まで口に入れてしまわんばかりの執拗さで執着し続ける。

「私はひっきりなしにシャワーを浴びては体をこすった。垢だけでなく、皮膚や肉や骨までこそげて、体がなくなってしまえとばかりにこすった」

しかし、実は男の不在が、女をそんなふうに駆り立てているのではなく、男のことを書き記す行為自体に、つまり男の不在を哀しむ自分自身に、取り憑かれているにすぎないことに気づいてしまう。

「私はすでにこれを書くのにじゅうぶん苦労している。このうえ彼本人が介入してきたら、どうなってしまうかわからない」

やがて、この小説を書いている<私>は、どうやってこの小説を終わりにすればいいか、悩み始めるのだ。
結局、「話の終わり」から書き始めたこの小説の、冒頭に立ち戻ることになる。

「彼と別れてから振り返ってみると、あの始まりは、その後に連なる無数の幸福な瞬間の最初の一つだったというだけでなく、すでに終わりを内包していた」

素晴らしい小説だと思った。
一度ではなく何度も読んでみたい。


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