想元紳市ブログ

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『東京物語』

小津安二郎監督、不朽の名作『東京物語』のデジタル・リマスター版を観た。

歳をとるごとに、回数を重ねるごとに味わいが増すのは、まさに本作が古典たる所以である。

描かれるのは、戦後日本における、旧き家族観の喪失と新しい価値観の芽生え。

これといってたいした事件も起こらない、ありふれた日常を淡々と捉えた作品にもかかわらず、だからこそ、単純な喜怒哀楽の言葉で表現できない深い味わいがある。

尾道に住む老夫婦が、子供たちに会うために上京する。
開業医をしている長男と美容院を営む長女の、冷淡で薄情とも思える接し方に対し、戦死した次男の嫁の優しさが心を打つ。

老夫婦を演じたのが笠智衆と東山千栄子、嫁が原節子、長男が山村聡、長女が杉村春子。

独特のカメラ・アングル、小津のデザインに対する傾倒など含め、既に語り尽くされたこの映画だが、改めて再見した印象を述べると、ひとえに「受容」というものの持つ美しさ、強さである。

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現実に逆らわず、あるがままを受け入れ、自分の中でやり過ごす。
その精神性を見事に体現するのがこの老夫婦だ。

子供たちの態度や生活ぶりに、内心がっかりしながらも、文句一つ言うわけではなく、自分たちはやっぱり幸せだと、穏やかに微笑む二人。

現に、子供たちは、激しく変化する東京での生活を必死に生きているだけであって、彼らに悪意はない。
むしろ観客は、反感を覚えながらも、自らの内にも同じものが巣くっていることに気づくだろう。

旧き老夫婦と、新しい世代の子供たちとの、間に位置するのが、血のつながっていない嫁である。

「わたくし、ずるいんです」と告白する有名な場面では、変わりゆく価値観や時代の中で、苦悩しながら両方に揺れ動き、橋渡しの役目を担う一人の人間の姿が見える。

最後、妻に先立たれた笠が隣人につぶやく。

「一人になると急に日が長ごうなりますわい」

これからの一人の長い時間も、しっかり受け止めて生きていくのであろう、その強さが、逆に胸に痛い。

 
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