想元紳市ブログ

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浅田次郎『あじさい心中』

『あじさい心中』は、短編集『薔薇盗人』に収められた一編。

浅田次郎の小説は、あざといストーリー仕立てが鼻について、たびたび読んでいて白けてしまうことがある。
特に、短編において顕著な気がする。

そんな中、知人に薦められて読んだ『あじさい心中』は、渋い情感の漂う、美しい短編だった。

リストラされた中年カメラマンの北村。
ある日、ふと間がさしたように、妻子にも告げず、一人、北のさびれた温泉街に向かう。
場末のストリップ劇場で出会った年増のストリッパー、リリィ。

一緒に酒を飲み、リリィの不幸な身の上話を聞いているうち、次第に二人の心は寄りそうようになる。
恋愛とはちがう、人生の盛りを過ぎた中年の行きついた場所で二人の気持ちが交差する。

やがて、リリィがぽつりと北村に呟く。

「お願いよ。あたしと死んでちょうだい」

心中は、結局、別の事件が起こって果たせずに終わる。
翌朝、宿を出てタクシーで駅に向かう北村は、あじさいの咲く一角に立つリリィの姿を見つける。
咲き乱れる花に囲まれて、リリィ自身が純白のあじさいのように見える。

リリィに憐れみの視線を寄せるタクシーの運転手に対し、北村はこう思うのだ。

「それはちがうと思う。リリィは降りしきる雨に腰をたわめ、こうべを垂れて生きているのだろう。そうやって、ずっと咲き続けてきたのだろう」

不幸の中でもひたすら前を向いて生き続けてきたこと、そしてその気高い美しさを知った北村の温かな思いが胸を打つ。


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