想元紳市ブログ

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アイザック・B・シンガー『敵、ある愛の物語』

ユダヤ人作家アイザック・B・シンガーの代表作のひとつ『敵、ある愛の物語』。

自分の手元にあるのは、1974年に発行された、改題前の『愛の迷路』である。

ナチの迫害を逃れ、ニューヨークに亡命してきたハーマン。
自分を匿ってくれた元使用人でポーランド人のヤドヴィーガと結婚しながら、自分と同じ境遇のマーシャと不倫を続けている。
そこに、収容所で死んだと思っていた妻タマラが、突然現れる。

三人の女と一人の男。

彼らはみな「生きてもいないけど、死んでもいない」状態。

マーシャは言う。

「生きてることと死ぬことと、そんなに違うかしら? 人間が死ぬのを山ほど見たので、よく知ってるわ」

そのような状態でありながら、信仰を捨てているようで、決して捨てていない。宇宙や、人知を越えた大きな存在に生かされてるのではないか、という仄かな希望がある。

訳者は解説で、「絶望や挫折の美しさ」という言葉を使う。

自分の大好きな一節を引用する。

「ハーマンは、ヘブライ語の母音シーガルの形をした三つの星を見つめた。それらは、おのおの恒星と惑星をひきつれた三つの太陽にちがいなかった。頭蓋骨の中に入っているちっぽけな眼球が、そんなにも遠い物体を知覚しうる不思議さ。頭いっぱいもある脳がひとときも休まずあれこれ思い悩み、いかなる結論にも到達できない不思議さ。神も、星も、死者も、すべて沈黙している。物を言うものたちは、何ひとつ説明しえない」

シンガーはイディッシュ語で小説を書き、1978年にノーベル文学賞を受賞しているが、日本での知名度はいま一つ。
バーブラ・ストライサンドが映画化した『イェントル』の方が有名かもしれない。

本書は、1989年に映画化もされたが、残念ながら、あまりいい出来ではなかったと記憶している。


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