想元紳市ブログ

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野呂邦暢『夕暮の緑の光』

1980年に42歳の若さでこの世を去った芥川賞作家、野呂邦暢の随筆選集である。

野呂は、言わずと知れた随筆の名手。
「野呂邦暢の本、高く買います」と掲げているネット古書店のサイトもあるそうで、過去の随筆集は高値がつき、極めて入手が困難だそう。

今年発行された本書は、三冊の随筆集から選りすぐったものに、未発表の数編を加えたものだ。

端正とは、まさにこういう文章を指すのだろう。
透明で、叙情的な世界に一気に引き込まれた。

『一枚の写真から』では、故郷長崎の写真を目にしたことで原爆の投下と戦後の記憶が甦り、そこから、なぜ小説を書くに至ったのかという思索に及ぶ。

「なんであれ絶ちがたい愛着というもののない所に小説が成立するはずはない。愛着とは私についていえば私の失ったもの全部ということになる。町、少年時代、家庭、友人たち。生きるということはこれらのものを絶えず失いつづけることのように思われてならない」

表題作『夕暮の緑の光』も好きな一編だ。

「優れた芸術に接して、思いを語る友が身近にいないという欠乏感が日々深まるにつれて私は書くことを真剣に考えた。分かりきった事だが、書きたいという欲求と現実に一編の小説を書きあげる事との間には溝がある。それを越えるには私の場合、充分に磨きのかかったやりきれなさが必要であった」

選者は、野呂を梶井基次郎と近い資質を持っていたと評している。


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