想元紳市ブログ

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エルヴェ・ギベール『憐れみの処方箋』

ギベールの小説は、以前、『ぼくの命を救ってくれなかった友へ』と『楽園』の2作を読んだことがある。

『憐れみの処方箋』は、ライターの故井田真木子が、エッセイの中で引用しており、強く印象に残っていた。
肺炎で1ヶ月以上寝たきりだったときに、唯一読んだ本がこの小説だったという。

末期のエイズ患者としての日常を綴った私小説である。

主人公は、自殺用の薬物をベッドの下に隠し持っているが、実際、ギベールは1991年、病でなく、自殺という形でこの世を去る。

タイトルについては、井田さんが極めて明快な説明をしている。

「『憐れみの処方箋』とは、自己憐憫の擂り鉢の底に引き込まれそうな自分を認めながらも最後の力を振り絞って擂り鉢から這い上がる“処方箋”を読者に捧げた本なのだ」

例えば、次のような文章を読むとよくわかる。

主人公は、バスの中で乗り合わせた見ず知らずの女性から、有名な作家ではないかと話しかけられ、こう続く。

「『間違いではないと思います。私はただ、あなたがとても美しいと言いたかったのです』そのとき、ふたりはいっしょにバスを降りた。それ以上はことばを交わさず、振り返ることもなく、彼女は右へ、ぼくは左にむかった。ぼくは感謝し、涙が出るほど感動した。そうだ。病人に、瀕死の人間に美しさを見出すべきだった。今まで、ぼくはそこまで受け入れることができなかった」

本書を読み進めた当時の井田さんも、実は大変重い病状から、絶望の淵をさまよっていたのではなかったのか。

井田さんのエッセイはこう終わる。

「同じ世代を生きたのですね、という言葉が口から出かかる。しかし、声に出したことはない。なぜなら、彼は死んでいるが、私はいまだに生きているからだ」

その井田さんもまもなく2001年に亡くなり、こうして、いま生きている自分が、それを読んでいる。


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