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想元紳市ブログ

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『鋼鉄の男-ラガーマン父子の火まつり-』

電子書籍『鋼鉄の男―ラガーマン父子の火まつり―』を配信しました。

25年ぶりに再会し、過去と対峙するラガーマン父子が迎える火まつりの夜。男たちが燃え上がる謎の飲精儀式とは…。『父と息子の裸祭』に続く「父子の祭」シリーズ第2弾

【あらすじ】
 ケガが原因で長く続けてきたラグビー生活を引退した上、最愛の母まで亡くし、失意のどん底にあった若林逸平。
 遺品の中に、なぜかラガーシャツ姿の若かりし父の写真と手紙を見つける。父の与田征吾は、逸平が幼いときに母と離婚し、それ以来、行方がわからなくなっていたのだった。
25年ぶりに、北国の製鉄所で働く父と再会する。
 時代から取り残されたような寂れた町で、過酷な肉体労働に挑む男たちの絆と生き様、そして冬の夜開かれる火まつりと謎の飲精儀式とは……。
褌一つになった男たちが、熱く激しく燃え上がる……。
 父と子は裸でぶつかり、やがて、それぞれが封印してきた過去と向き合うのだった。
 
【目次】

一、石幡製鉄所第一社員寮
二、シャワールーム
三、石幡神社
四、男たちが燃える夜
五、男吉
六、手紙



きっかけは、釜石製鉄所のドキュメンタリーをみたこと。
町の寂れた様子などはもちろん創作ですが、製鉄所と深い関係がある神社や従業員たちが出入りする呑兵衛横丁のようなものは実際、釜石に存在しています。

また火まつりは、和歌山県新宮市の御燈祭をイメージしており、祭りの日には白いものしか食べないというしきたりは、今も守られています。

冒頭の「序」約3500字を一挙掲載します。この後、父と子がどんな展開に至るかは、各サイトから本編のダウンロードよろしくお願いいたします。

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   序

 北国の凍えるような、夜の雪が舞っている。
 かつて眠らない鉄の町として活気を呈し、大勢の乗降客で賑わっていた駅も、今はさびれてただ物悲しいばかりである。
 若林逸平は、到着した列車から暗いホームに降りたった。小型のキャリーバッグを引きずりながらホームを歩く。
 迎えはいない。
 父と二十五年ぶりに再会するのがなんだか怖かった。
 到着する時間をあえて知らせなかったのは、駅のホームでセンチメタルな対面になるのを避けたかったからだ。いきなり余計な手間をかけさせたくないという思いもあった。
 父の与田征吾が家を出たのは逸平が小学二年、九歳のときである。
 それ以来、一度も会っていない。母は、離婚した理由はおろか、父の話をすることもなく、逸平は所在すら知らされていなかった。幼心にも、聞いてはならないことだと察していた。
 東京での母との二人暮らしを寂しいと感じたことはなかったし、高校でラグビーに出会ってからは、毎日が追い立てられるように過ぎていった。
 大学卒業後も、社会人としてラグビーを続けていた逸平が、思いもよらず致命的な大けがを負って引退を余儀なくされたのが昨年の春のことである。
 追い打ちをかけるかのようにそれから半年もせず、かねてから療養中だった母が他界した。
 自分でもあきれはてるほど、人生のどん底を味わった。会社の総務部でさして意味のない事務仕事をしながら、孤独と挫折の意味をかみしめていた。
 母の遺品の中に、一枚の色褪せた写真と父から送られてきた手紙を見つけたのは、葬儀から一週間ほどしてのことだった。
 写真には、逸平が生まれる以前の、若かりし父の姿が写っていた。
 グラウンドとおぼしき場所に精悍なラガーシャツ姿の父が立っている。父もラグビーをしていたとは全く知らなかった。
 手紙は、消印を見ると、数年の間隔をはさんで合計三通。
 筆圧の強い、角張った達筆の文字が並んでいたが、内容は事務的なぐらい短いものばかりだった。逸平のことに触れたものはない。それよりも、母が離婚後も父とときおり連絡を取り合っていたことに驚いた。
 差出人の住所から、北国の製鉄所で働いていることを知った。
 また、どうやら逸平が就職するまでの間、毎月、決まったお金を送金し続けてくれていたらしい。逸平名義の預金通帳も見つかり、手を付けないまま、まとまった金額になっていた。
 逸平はさんざん悩んだ末、思い切って父に手紙を送ることにした。
 母の死を伝えるというのは、表向きの理由に過ぎない。身寄りのなくなった逸平の中で、実の父の存在が日増しに大きく膨らんでいたのである。
 記憶にある父は、例えて言うなら、大地に深く根を張った巨木だった。ただ単に身体ががっちりとして大きいということではない。堂々して、包み込むように守ってくれる、とてつもなく大きな存在として、幼い逸平の日常に、たしかにいた。武骨で他人には不愛想だったが、逸平にだけは優しかった。なのに、ある日突然、逸平の前から姿を消した。その理由を、今なら知っていいはずだ、と思う。
 忘れかけたころ、父から返信が届いた。
 一か月が過ぎていた。
 母に対する悔やみの言葉があり、最後に、父の暮らす町で開かれる火祭りを見に来ないか、との誘いが追伸の形で添えられていた。
 積極的に「会おう」ではないことに逸平は気を楽にしたが、それは父なりの気遣いだったのかもしれない、とあとで思った。

     *

 十人も来ればいっぱいになる場末の酒場「男吉」は、その名のとおり、むさくるしいばかりの男たちですべての席が埋まっていた。
 カウンター席が七席、物置を兼ねた四人も座ればぎりぎりの座敷席が一つ。壁紙はところどころ剥がれてめくれあがり、床のリノリウムもどす黒く変色している。
 客はみなそこそこ中年のようだが、くたびれた感じはこれっぽっちもなく、そろって肉厚の体躯に脂ぎった肌つやをしていた。
 中には、黒い油汚れがこびりついた作業着そのままの者もいる。男たちは全員、ここから歩いて十五分の場所にある石幡製鉄所の作業員たちだった。
 彼らの多くは出稼ぎで、妻子がいたとしても郷里に残したままだ。親兄弟に絶縁された者からムショ上がりまで、何らかの訳ありも珍しくない。そもそも今の時代、そんな訳ありでもない限り、斜陽産業にして究極の3K仕事である昔ながらの製鉄業など、好んで働きたがる者などいるはずもなかった。
 ここ「男吉」は、そんなさまざまな事情を背負った男たちが過酷な肉体労働を終えたあとに立ち寄る、言わば、息抜きの場を提供しているというわけだった。
 日本の製鉄業が隆盛を誇った高度経済成長の時代には、このあたりも呑み屋横丁として十軒あまりが軒を連ねていたものである。その後、俗にいう「鉄冷え」の大不況で、工場の規模も最盛期の五分の一以下に縮小し、横丁で残るのはここ「男吉」だけになってしまった。
 当然ながら、こんな場末の小汚い店で女の客を見ることなど滅多にない。そもそも製鉄で成り立っている町自体、女の数が極端に少ない気がする。鉄の町であると同時に男の町なのだ。
 また、たまに比較的若い作業員が雇われてきたとしても、彼らはなぜかあまり酒を飲まない。あるいはすぐに音を上げて姿を消す。なかなか居つかない。時代遅れの酒場である「男吉」の客のほとんどが中年なのはそのせいもあった。
 それぞれが陽気に会話し、豪快に手酌で酒をあおっている中にあって、一人だけぽつりと、どこか異質な雰囲気を醸し出している男がいる。
 それが逸平の父、与田征吾だった。
 カウンター席の一番奥に座って、口数も少ない。だが、頑丈な男たちの中でもひときわがっちりしていて貫禄があった。濃い無精ひげと後ろに流した髪にはいくらか銀色が混じり、苦み走った顔立ちには独特の陰がある。他の男たちから孤立しているわけではないのだが、どこか威圧的で謎めいて見えるとしたら、それは得体の知れない深みを湛えた瞳、また、左こめかみから頬を横切る傷痕のせいもあったかもしれない。
「与田さん、いいんスか? 迎えに行かなくったって」
 カウンターの中から大山達郎が、さりげなく征吾に声をかけた。
「男吉」とは先代店主の名前であり、息子の達郎は二代目である。坊主頭と口髭のせいで見た目はよく極道と見間違われる。まだぎりぎり三十代で、見ようによってはきりっとした端正な目鼻立ちなのに、ぶっきらぼうなぐらいの人懐こさを売りにしていた。
「せがれも、あいつなりに気まずいんだろう」
 征吾がぼそりと呟く。
 到着する時間は知らせてこなかったが、都会のように本数は多くないので、東京を出た時間からだいたい推測がつく。
「おせっかいかもしんないけど、もうそろそろ社宅に着いてもいい頃じゃないんスか?」
 達郎はあきらかに征吾を心配している。どうやら、征吾の訳ありな事情についてもある程度把握している口ぶりだ。
 そうでなくても、普段からただでさえ寡黙な征吾が、その日はいつにもましてむっつり押し黙り、酒を飲むペースも量も多かった。
「しょんべんだ」
 そう言って、征吾がいきなり立ち上がった。低い天井が、大柄な体格のせいでよりいっそう低く見える。男たちの後ろの狭苦しい隙間をなんとかすり抜けてのれんをくぐり、店先に出た。
 粉雪が街燈の明かりを受けてちらちらと光りながら舞っていた。
 横丁だった通路の突き当りまで行けば便所があるが、誰もわざわざそんな手間などかけない。手っ取り早く、路地の電柱に向かって立小便で済ます。
 征吾は、あまりの冷え込みに一度ぶるっと身震いした。
 凍える手でズボンのファスナーを下ろし、一物を鷲掴みして外に出す。寒さで縮こまっていても、ずしりとした重量感のある太マラだ。
 少しだけ亀頭に被っていた皮を指先で剥いてから黒ずんだサオに手を添える。しばらくすると、尿道が開いてじょぼじょぼと黄色がかった小便が飛び出した。酒の混じった強いアンモニア臭とともに白い湯気が立ち昇り、凍てついていた路肩の雪が一気に解けていった。
 一物をぶるぶると揺らし、滴を払う。ズボンにおさめ、店内に戻った。
 残っていた酒を一息に飲み干し、目でおかわりを催促する。
 達郎が空のコップに一升瓶から直接酒をついだ。
「これ飲み終わったら、帰りませんか」
「ああ、わかった」
 征吾はそれだけ言うと、なみなみと注がれた酒の表面に映る自分の顔がかすかに揺れているのを、神妙なまなざしで見つめている。
 ある覚悟を、心のうちに秘めて……。

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鋼鉄の男―ラガーマン父子の火まつり―

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『流刑の島』
『父と息子の裸祭』
『覗き・刺青の男』
『浪速親父の淫らな純情』
『黒潮―カツオ漁師の熱い夜』
『ゲイ官能小説短編集【男たちの旅】』
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『父子男色酒蔵』
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