想元紳市ブログ

2016年11月 ≪  12345678910111213141516171819202122232425262728293031 ≫ 2017年01月
TOP ≫ ARCHIVE ≫ 2016年12月
ARCHIVE ≫ 2016年12月
      

≪ 前月 |  2016年12月  | 翌月 ≫

春日太一『鬼才 五社英雄の生涯』

1992年に63歳で他界した映画監督・五社英雄の評伝。

とはいえ、生い立ちなどプライベートの部分はごくわずかで、大半は、フジテレビに入社してから亡くなるまでの仕事ぶりと、作品の裏話で占められている。

それなら、タイトルは『五社英雄の仕事』でよかったのでは、と思う気持ちは、中盤、一気に消え失せる。

どうやら、五社の代表作とも言える『鬼龍院花子の生涯』になぞらえたものであること。
そして、妻の借金と一家離散、実娘の瀕死の交通事故、本人の銃刀法違反による逮捕など、自殺すら考えた人生どん底の最中、壮絶な再起をかけて取り組んだ作品が『鬼龍院』だったことに圧倒されるのである。

反対意見を跳ね除け、監督に五社を後押しした、原作者・宮尾登美子の言葉。

「テレビ映画撮る人ならば、普通のサラリーマンでも大丈夫かもしれない。でも映画撮る人は、修羅場を見た人間でないと出来ないんじゃないかという気が前からありましてね。五社さんがつらい期間を経てこられたということで、ものすごく期待するものがあったんです」

修羅場を見た人間に対する強い思い入れは、五社自身も同様だった。

映画『陽炎』で、準主役に決まっていた荻野目慶子。ところが、撮影直前に自身のマンションで恋人が首つり自殺する。降板を申し出た荻野目を、むしろ積極的に推したのが五社だった。

「それを乗り越えてこの役になりきって入ってくれるんだったら女優荻野目慶子として非常に興味がある」

32_convert_20161227210509.jpg

破天荒な生きざまで波風も多かったが、不器用な男気溢れる魅力と、人間の本質を見抜く鋭い眼で周囲を虜にした五社。

印象に残った、例えば次の二つのエピソード。

三島由紀夫を説得し、映画『人斬り』に出演してもらった際、役作りについて質問された五社はこう答えて、あの三島をもうならせたという。

「テロリストとしたら一種の狂気じみたあなたの目だ、目のエネルギーだ、どう見てもあなたの顔の骨相は犯罪者だ」

また、雑誌のインタビューで一番印象に残っている女優は誰かと聞かれ、

「夏目雅子さん。あの人の魅力はね、暗さの中で明るく振る舞う、それに尽きますね」

五社は、強面な風貌だけでなく、『陽暉楼』の撮影中、自らの背中一面に刺青を入れていた。また、『吉原炎上』や『肉体の門』など、ある種ゲイ的な感性をも持ち合わせていた五社。

濡れ場を撮影するとき、五社は助監督相手に、自ら裸になって見本をみせたという。まず、自身が女の役になって助監督に攻めさせる。続いて助監督を女優に見立て、男の側の動きを演じてみせる。

想像するだけで、官能的だ。

五社の前では、多くの女優がヌードも厭わなかった。しかし、五社は描きたいのは裸ではなく人間の毒だとし、こう続けた。

「毒は、人生の中心にある。中心、ヘソから大きな渦みたいなものがグルリグルリと回り始める。それを見据えたい」

今の日本の映画界で、こういったタイプの監督は思いつかない。


スポンサーサイト

林真理子『RURIKO』

「RURIKO」とは他でもない、昭和を代表する美人女優の一人であり、70歳代後半になった今も現役で活躍する浅丘ルリ子のことである。

著者、林真理子の言葉をそのまま借りれば、「『RURIKO』は評伝ではなく、小説家としての私が浅丘ルリ子という女優さんの半生にアプローチをした作品」。

つまり、全て実名で登場する、限りなくノンフィクションに近い形でありながら、心象風景や会話には、著者の創作が存分に盛り込まれた内容となっているのである。
そのため、実際、浅丘本人と多くの時間を共有し、一緒に旅をしたこともあったらしい。

95412.jpg

大蔵省の高級官僚だった父の仕事の関係で、満州国に生まれた信子(ルリ子の本名)。当時から類まれなる美少女として知られ、帰国後15歳で映画デビュー。数々の作品に出演し、やがて日活の看板女優として人気を博する。

もちろんルリ子の半生が小説の柱である事に間違いはないのだが、全編を通して登場する4人の有名人がいる。
ルリ子が生涯愛してやまなかった石原裕次郎、親しいつきあいをしていた美空ひばり、婚約寸前だった小林旭、結婚と長い別居を経て離婚した石坂浩二、である。

本書は、ルリ子とルリ子が関わる4人の大スターが織りなす物語だと言ってもいい。

とりわけ昭和の芸能界を代表する二大スターである裕次郎とひばりに割かれるページは多く、さながら昭和芸能史としても面白い読み物となっている。

浅丘ルリ子本人は、確かに押しも押されぬ大女優であるにもかかわらず、代表作は?と問われると意外に即答できない人が多いのではなかろうか。
「渡り鳥シリーズ」のおける小林旭の相手役、『男はつらいよ』のマドンナ、映画通なら『憎いあンちくしょう』など典子三部作を挙げる人もいるかもしれないが、自分は一本も観たことがない。

男性アクション映画が主流だった当時の日活では、女優はあくまでも主役を引き立てる相手役に過ぎず、それは明らかに不幸なことだった。だが、それだけでなく、あの華やか過ぎる美貌が、もしかして様々な役柄を演じる上で、ある種の障害になってしまったという一面も否定できない気がする。

おそらく、そうした事実を踏まえて、林真理子も、以下のような文章を記している。

「自分がいつもこれほど幸せでいられるのは、本当のスターではないからだろうか。それでもいいと信子は思った。自分はおそらく裕次郎やひばりのようにはなれないだろう。つらい宿命も不幸もない代わりに、これほど陶酔するひとときも得られないはずであった。
が、それでも生きていく、と信子は心に決める。老いても、おちぶれても生きていく」

小説の最終章は、裕次郎とひばりの相次ぐ死という形で大団円を迎える。それは昭和という時代の終わりの象徴だった。

そして終盤、ルリ子と4人のスターの物語に、もう一人、若き女優が唐突に顔を出す。
浅丘ルリ子が妹のように可愛がっていたという大原麗子だ。

本作発表から数年後、あまりにも孤独な死を迎える大原麗子。
それを知っている読者は、今も現役であり続ける浅丘ルリ子の存在に、ますます特別な感慨を覚えることになるかもしれない。


『覗き・刺青の男』

拙作の電子書籍3作目を配信しました。

『覗き・刺青の男』。
覗きが趣味の青年のもとに届いた、ある男の訃報。捨てた故郷、初体験の相手だったその男の全身には刺青があった……。

『父と息子の裸祭』に続く、「海の男」シリーズ三部作の第2弾。
G-men 235号(2015年10月号)掲載作に加筆修正の上、新たな官能シーンを書き下ろしています。

s-プレゼンテーション22

【あらすじ】
東京の居酒屋で店長をしている健一の趣味は覗きだった。年下でリーマンの恋人もいるが、ある日、たまたまある男の訃報を耳にして、激しく動揺する。15年前に捨てた故郷の港町、初めての相手だったその男の屈強な肉体は鮮やかな刺青で覆われていた……。
体育大学の男子寮や居酒屋のトイレなど、覗きの日常の合間、折に触れ回想に耽る中で、最後に、ある驚きの事実が明らかになる。



刺青の男は、個人的に性的ファンタジーの一つです。
例えば、任侠映画に登場した高倉健や鶴田浩二のイメージ。

その昔、大久保にあった某所にて、一度、全身和彫りの男と経験があります。まだ二十代前半だった自分には、ずいぶん年上に見えましたが、今思うと、まだ40歳前後だったのでしょうか。一言も会話は交わさず、ただものすごく引き締まった筋肉質に短髪、絵柄が施された肌はすべすべと滑らかだったという記憶は、もしかしてかなり美化されてしまっているかもしれません。

もう一つ、幼少時の思い出。
当時、実家の隣に住んでいた親父の上半身には鮮やかな和彫りが……。
物腰も口調も穏やかで優しい人でしたから、極道ではなく、いわゆる昔ながらの職人堅気の刺青だったのかもしれません。その親父の息子、自分より一回り以上年上の兄貴には、小さい頃よく遊んでもらいました。たまに泣かされたりしながらも、いつもいろいろなことから守ってくれたような。
空手の有段者となり、風貌もなかなか野性的な面立ちでしたが、その後、40代後半の若さで妻子を残し病により他界してしまいました。

そんな記憶が入り混じり、本作の随所にさりげなく盛り込まれています。

Kindle↓


DLsite↓
覗き・刺青の男

Digiket↓
[想元ライブラリー] の【覗き・刺青の男】

■既刊分はこちら
『流刑の島』
『父と息子の裸祭』

勝目梓『あしあと』

『あしあと』は、勝目梓の比較的最近の作品を集めた短編集。
自伝的な内容の『小説家』と『老醜の記』以来、お気に入りとなった作家である。

収録された10の短編に共通しているのは、勝目梓にしてはかなり抑えた官能描写とわずかにオカルトめいた展開。
ただし、オカルトとは言っても、ホラーの禍々しさはなく、人の記憶や強い念、執着といったスピリチュアルな世界だ。

冒頭、『万年筆』の主人公は、一向にペンが進まない中年の兼業作家。
妻は、なぜかセックスの絶頂のときに予言夢を見てしまうという霊感体質の持ち主である。
妻の夢に従い、妻の万年筆で執筆を進めるうちに、作家は万年筆にまつわる遠い過去の女に想いを馳せるようになる。

『橋』の主人公もまた、中年を過ぎた会社員の男。
ある日、家族を捨て家を出ていた父の最期を看取ったという女の妹から一通の手紙が届く。
疎遠だった父の素顔、さらにその女と自分のただならぬ因縁を知る男の心の揺れを描いて切ない読後感があった。

とりわけ気に入ったのが『一夜』。

先妻を病で亡くした54歳の須藤が、縁あって46歳で初婚の節子と再婚する。
節子は、14年もの間不倫関係にあった相手が6年前に他界したという過去を持っている。

「その人が背負ってきたものを知ってみると、楽しみのたわいのなさも深い孤独と寂寥感の顕れか、と思われてくるのだった。そこに寄り添っていきたいという須藤の思いは、彼自身の寂しさが生み出したものだった」

ある日、節子の叔母の墓参り先で、須藤は突然、若い頃、出家していたその叔母と夢とも幻ともつかぬような情交を持ったことを思い出す。

「妻に隠れて不倫をはたらいた夫さながらに、これからは懐かしくて甘やかな隠し事を持つうしろめたさを抱えたままで節子と暮していくことになるのだな、といった思いにつながっていくのだった」

それぞれに秘め事を抱えた大人の男女の成熟した関係が、なんとも甘美で味わい深い。