想元紳市ブログ

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『どっこい! 人間節』

世界的評価も高い、小川紳介プロダクション製作のドキュメンタリー『三里塚』シリーズは知っていたが一度も観たことはなく、本作はその存在すら知らなかった。最近DVD化されたものを鑑賞。

1975年公開で、サブタイトルが「寿・自由労働者の街」であるとおり、東京の山谷、大阪の釜ヶ崎と並ぶ三大ドヤ街、横浜寿町に生きる男たちの姿を追ったものである。

一泊数百円の簡易宿で生活しながら、日雇い労働を求めて寄せ場に集まる男たち。彼らは、撮影当時で寿町におよそ5000人、3分の1は生活保護を受けながら、その日暮らしをしていたという。みな昼間から浴びるように酒を飲み、それぞれ何らかの事情を背負って身寄りもなく孤独に生きている。

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前回の『(秘)色情めす市場』の舞台もしかり、先日は釜ヶ崎で晩年を過ごした伝説のストリッパー・一条さゆりの伝記を興味深く読み終えたばかりである。

一度もそれら地域に足を運んだことはないものの、なぜか強く惹かれてしまうのは、人間本来の剥きだしの生き様を否応なしに見せつけられるからだ。

本作を観ると、普段テレビで放送されているドキュメンタリーやノンフィクションの類が、視聴者向きに甘い味付けがされたただのショーに思えてしまう。

撮影隊は1年近く、男たちとドヤで生活を共にし、インタビューでなく同じ目線で語り合う。男たちの多くが、あたかもカメラが存在しないかのように振舞うのは、そうして培った関係のたまものだろう。

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また、究極のドキュメンタリーとは、長回しの撮影につきるのではないか、とも思えてくる。
何気ない仕草や表情に、その人の真意や本性が垣間見えて、ドキリとしたことが度々あった。

例えば、年越しのある日、腹が痛いとボランティア診療所を訪れた通称クマさん。テレビなら通常カットしてしまうところまで、克明に記録される。最初のおびえたような不安顔、看護婦にたしなめられる表情、わずかに安堵して診察室を出ていく後姿は、一本のドラマ以上に多くを語っていた。

自分はかねてから、70年代に30代前後だったの日本人男性の風貌をとても色気があると思っている。今のその世代が一様に幼く見えるほどに、彼らは成熟した男らしさを匂わせている。
撮影後まもなく他界したクマさんも、40代半ばには見えない、疲れた老け顔にも関わらず、面立ちそのものは実に端整だった。

主な舞台となる双葉会館や寿公園を、ストリートビューで調べてみると、そのまま現存していることがわかった。


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『(秘)色情めす市場』

日活ロマンポルノの名作を立て続けに鑑賞したのだが、紛れもない傑作だったのが1974年公開の『(秘)色情めす市場』。

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西を代表するドヤ街、大阪釜ヶ崎に生きる、19歳のトメが主人公。
貧困の長屋暮らしで、母のヨネともども、街娼をして生計を立てている。弟のサネオは知的障害者だ。

冒頭、トメがカメラに向かってこう呟く。

「うちな、なんや逆らいたいんや」

男に肉体を弄ばれながらも、決して従属もせず媚もせず、毅然さと自尊を失わずに生きる姿はひたすら逞しく、そして美しい。
それは、男に依存し、そのためには我が子すら犠牲にする母の生き方に対する反抗でもある。

トメは、思春期を迎えつつサネオを、自らの肉体で慰めてやる。他では絶対見せないその表情には、母性とも菩薩とも見て取れる崇高さが漂っている。

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トメを演じたというよりトメ本人としか思えない、芹明香の圧倒的存在感。
芹明香が放つけだるさは、桃井かおりをさらにざらつかせて、武骨にした印象だ。

母を演じたのが、花柳幻舟。口汚く、情けない女になりきって、抜群のうまさがあった。

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村田英雄の「王将」が流れる終盤の一部シーンを除いて、全編陰影の強いモノクロであることからして、いわゆるポルノ映画とは一線を画している。

ゲリラ的に撮影されたという当時の釜ヶ崎など70年代初頭の大阪の光景は、実に生々しいリアリティがあり、それだけでも必見だ。
そして、どのシーンを切り取っても、恐ろしいほどに美しい。
控えめなジャズ風の音楽も秀逸で、田中登監督の強い作家性と映画愛の賜物だろう。

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本作でもうひとり、陰の主役とも言えるのが、宮下順子演じる文江である。
甲斐性のない恋人のため、やがて身を売るようになり、周囲に流されるまま悲惨な末路を迎える哀れな女。

そんな文江の生き方が描かれるからこそ、終盤、いよいよ覚悟を決めたトメの強さが際立ってくるのである。

田中登監督は、元々本作に『受胎告知』と名づけたかったらしい。
それが示すとおり、伝わってくるのは、性の持つ悲哀であり、泥沼に咲く人間の尊厳のようにも思えてくる。

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