想元紳市ブログ

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鳴海章『真夜中のダリア』

鳴海章による1998年のミステリー小説で、舞台は新宿二丁目。

二丁目で起こるゲイバーのママ連続殺人事件、というと軽いコメディータッチかと思いきや、物語は意外にグロテスクでハードボイルドだ。
事件は単なる「オカマ狩り」なのか、しかし、皆決まって指が切断されているという残虐な共通点がある。

主人公は、二丁目に流れ着いてオカマとつるみ、その日暮らしの堕落した生活を送っているマッサージ師の中年、仙堂。
やがて、事件はフィリピンやチャイナ・マフィアの裏社会に繋がり、仙堂の正体と過去が暴かれていく。

なんと言っても登場人物の内面描写が巧い。

例えば、冒頭、いきなり殺害されるオカマのタケオの独白など、生々しいほどにリアルだ。
幼少時代、デブがコンプレックスだったこと、男との初体験、着飾り女装する理由など……。

そうした人物描写を通じて顔を出す、おそらく著者自身の人生観や死生観が切ない。

「死そのものに哀しみをおぼえたことはない。ひとつとして公平なことがないこの世で、たったひとつ、誰にも等しくやってくるのが死だ。差は早いか、遅いかでしかない。もし哀しい死があるとすれば、いつか自分に訪れる、たったひとつのそれだけだろう。仙堂はそう思っている。
 むしろ目の奥が熱くなり、唇が震えそうになるのは、皆に笑われる中で必死に感性という言葉を振りまわしていたタケオの姿だ。生きていることは、死ぬことより、はるかに哀しい」

「失敗しても失うものがない。しかし、それはひどく淋しいことである。トヨクニが<ミリオン・ローゼス>を失ったとしても朱実がいる。愛情を注ぐ相手がいる。今のところ親子の関係は良好といっていいだろう。父親がホモで、母親が死んでいるという点は必ずしも正常とはいえないかも知れないが、外見だけはまともで、その実ひどくゆがんだ親子はいくらでもいる」

新宿二丁目の描写にしろ、ゲイの心理描写にしろ、あまりに繊細でリアルゆえ、著者はもしや? と疑いたくなってしまうほど。

実際、写真で見る著者の風貌はこの世界にありがちな感じだが、調べてみると、ゲイを描いた小説は本書ぐらいで、多作の多くは、むしろ真逆の、エアーフォース関連のハードな題材ばかり。

本作を原作にセンス良く映像化すれば『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』のような映画ができあがりそうだが、残念ながら今の日本の映画界にはそんな器はなさそうである。



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『マイ・ビューティフル・ランドレット』

1985年公開、スティーブン・フリアーズ監督の『マイ・ビューティフル・ランドレット』。

ゲイシネマの名作の一つとして数えられる本作。
スタイルがあり、魂の籠った作品というのは、月日が過ぎても全く色褪せないのだなあとつくづく思う。

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時はサーチャー政権下、ロンドンの下町。
主人公はパキスタン系移民の青年オマール。
左翼系ジャーナリストだった父が酒浸りで荒れた生活の中、実業家として成功している叔父から一軒の汚いコインランドリーを任される。
幼馴染のジョニーを誘い、二人で経営を立て直そうと奮闘するのだが、ジョニーはかつてオマールの恋人でもあった。

二人の姿を中心に、映画の中で描かれるのは、イギリス社会の抱える様々な問題である。
移民、富裕階級と労働者階級の格差、失業、世代間対立、荒れる若者の暴力など。

モザイクのように入り組むそれら対立や摩擦は決して解消されることはなく、嫌なら逃げるしかないのだという無力感が映画全体を覆う中で、オマールとジョニーの二人だけは本能の赴くまま、お互いを求め、愛し合う。

二人の同性愛自体が、周囲にいささかの軋轢や差別を生むこともないのは、80年代の映画であることを思うと、少々驚きですらある。
というより、登場人物のほとんど誰も、最後まで二人の関係を知らぬまま。
もしかして微かに気づいているとすれば、オマールの父と、従妹のタニアぐらい。

その意味で、同性愛が物語の主題になることは一度もないのだが、だからこそ、混沌とした摩擦と閉塞だらけの日常の中で、唯一アンタッチャブルな、純粋さの象徴として、二人のあどけない恋愛が輝いて見えてくる。

ジョニーを演じたのは、まだ初々しいダニエル・デイ・ルイス。

オマールがジョニーに言う。

「おまえは汚いけど美しい」

デイ・ルイスは社会の底辺で生きる鬱屈した精神を内面に抱えながら、決して純粋さを失わない青年を好演。

また、二人の青年の関係とは別に、叔父の不倫騒動が、意外に味わい深くていい。