想元紳市ブログ

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『吉屋信子~黒薔薇の處女たちのために紡いだ夢~』

吉屋信子は、大正から昭和にかけて活躍した女流作家。
林芙美子や佐多稲子らと同世代である。

少女小説の大家として当時は絶大なる人気作家でありながら、おそらくそれゆえ、長らく日本文学史の中では軽視されてきた。

また、最初の明白なレズビアン作家として、事実上のパートナーであった女性を養女にし、自らの最期を看取ってもらった半生なども、知る人ぞ知るといったところだろうか。
同性愛体験を告白した小説も発表している。

本書は、近年、再評価の機運が高まっていることに合わせ、吉屋の重要な作品を集めたアンソロジーである。
林芙美子らと座談会の模様、瀬戸内晴美や田辺聖子などが彼女について綴ったエッセイも収録。
岡本かの子との出会いを綴った随筆なども読んで楽しい。

掲載された写真を見ると、流行の先端を行く洋服を纏い、外見も中身も当時としてはかなりのモダンな女性だったことがわかる。

収録された短編の中で自分が好きだったのは『ハモニカ』。

教師となり地方の女学校に赴任した和子が、夏休みで久しぶりに東京の実家に戻る。
母は早くに亡く、家族は父と弟二人。
それまでずっと母代わりだったが、父とは折が合わず、それも実家を出た理由の一つだ。
出来のいい次男は登山で留守、父からどことなく疎外され居残りの長男を和子は不憫に思い、ハモニカを買ってやるという物語。

男世帯のぎこちなさの中にあって、和子の女の顔がさりげなくもたげるラストがいい。

「頭が良くって才があり父に望みをかけられ、夏休みも兄を残して山に行き、温泉に友達と遊んでいる十七の洋二、いま眼の前に父の留守を盗むようにハモニカを夢中で吹き鳴らして姉にきかせて喜んでいる十九の宗一……二人の青年、二人の若者の運命……そしてやがては和子の前にこの弟達以外に現われて来るかも知れない、一人の青年、恋人か良人かの名によって……その男の運命にぶつかる自分……和子の胸にふとそんな考えがちらと浮んだ」

近年の再評価は、吉屋が単なる少女小説の流行作家ではなく、大人の文学性を湛えた作家だったというものである。
事実、特に中期以降は大人の恋愛小説や時代小説が中心になり、それらは多くの読者を得ていた。

そんな中からたくさんの小説が映画化・ドラマ化され、最近でも、1985年の大映ドラマ『乳姉妹』、2005年に話題になった昼ドラ『冬の輪舞』の原作は、ともに吉屋の『あの道この道』である。


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『あまちゃん』その2

あまちゃん』も、ついに最終回を終えた。

途中やや退屈だと思ったこともあるが、こうして終わってみるといいドラマだったとしみじみ思う。

個人的にクライマックスだったと思うのは、アキが『潮騒のメモリー』を新しく録音するシーンである。
お手本を見せて歌う春子と、訪ねてきた鈴鹿ひろ美が、ついに封印されてきた過去に向き合い、邂逅へと至る。

長い間、ずっと自らを苦しめ、拘り続けてきたものが、たった一言であっけなく消えていく不思議。
謝罪と赦し、その後にやってくる安らぎが二人の顔に浮かぶ。
春子とひろ美、さらに太巻の、それぞれの過去が清算される、せつない名場面だ。

主人公はもちろんアキだが、実は、春子とひろ美の生き方こそが、本当の意味で、ドラマの柱だったのではないかと思う。

夏、春子、アキの三世代の女の生き方が時間を越えて繋がり、過去と現在が見事に交差するドラマのテーマは最後まで貫かれる。
三人の名前には、そんなテーマが暗示されているのだ。

鈴鹿ひろ美が「三代前からマーメイド」と歌詞を替えて歌ったことは、大団円の締めくくりに完璧なまで相応しいものだった。

春子とひろ美が春子の部屋で語り合うシーンと、アキとユイが駅の待合室で会話するシーンのカットバック。
様々なことを乗り越えた大人の女性二人が辿り着いた場所……。
未来も未知数の若者二人が夢見ているもの……。

アキとユイが手を取り合い、線路を走り、トンネルを抜け、防波堤を灯台に向かって駆け抜けるラストがいい。

中年のゲイとしては、スーザン・サランドンとジーナ・デイヴィスを思い出したりもする。

『テルマ&ルイーズ』では、二人は最後、追い詰められてなお自由のため、手をつないで崖からダイブし死を選ぶのだから、全く無関係の物語ではあるのだが、アキとユイが、これからいよいよ現実の大人の世界に踏み出すという意味で、二人手をつないで太平洋にダイブしたってよかったのに、とすら思う。