想元紳市ブログ

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『タクシードライバー』

何度観ても古さを感じず、映像、脚本、音楽、役者、どれをとっても映画史に燦然と輝く名作『タクシードライバー』。

大都会、ニューヨーク。
光と影、ネオン、雑多な人々を映すタクシーのフロントミラー……。
トム・スコットのけだるいサックスが流れるオープニング・クレジットすら、もはや芸術的な美に到達していると自分は思う。

主人公は、ロバート・デ・ニーロ演じる新人ドライバーのトラヴィス。
堕落した都会への失望、孤独、金と欲望にまみれた世俗に対する怒りが、次第に狂気を帯び、過激な行動へと駆り立てられていく。
ベトナム戦争における海兵隊員としての過酷な体験が、彼の内面に底知れぬ暗い影を落としているのだ。

そんなトラヴィスの行動に火をつけるのが、シビル・シェパードとジョディ・フォスターという、完璧なキャストが演じる二人の女である。

次期大統領候補の選挙事務所で働くベッツィ。
美しく、知的でクールな彼女に一目惚れしたものの、デートでポルノ映画館に連れて行ったことで激しく拒絶される。人が変わったような冷淡な態度にトラヴィスは絶望とも言える、裏切られた思いを抱く。

もう一人は、家出し、少女売春をしているアイリス。
ヒモにたぶらかされ、罪悪感などないように見えて、その心奥には未だ幼い少女の純粋さがあることをトラヴィスは信じ、なんとしても救い出したいと思う。

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ついに死を覚悟して武装し、行動に出たトラヴィスは、大統領候補の暗殺は未遂に終わるものの、アイリスの救出には成功する。
その結果、皮肉なことに、社会から英雄だと崇められる。

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一夜でヒーローとなったトラヴィスに、再び擦り寄ってきたベッツィが、タクシーに乗り込んできて誘惑しようとするのだが、そんなベッツィは彼にとって、もはや打算に満ちた、都会の薄汚れた偽善以外の何者でもないのである。

ベッツィを降ろし、再び夜の街を走るタクシーにエンドロールが重なる。
フロントミラーに映る虚像と実際の夜景が、画面を半々に分断しているその映像が象徴するのは、まさにトラヴィスという人間そのものだ。

最初のデートのとき、ベッツィは、クリス・クリストファーソンの歌から引用し、トラヴィスのことをこう形容している。

「事実と作り話が半々の歩く矛盾」

現実と理想の狭間で次第に狂気をまとう、トラヴィスの危うい本質を、ベッツィはこのとき既に女の直観で見抜いていたのである。

 
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石原郁子『異才の人 木下惠介ー弱い男たちの美しさを中心にー』

本書は、日本映画を代表する木下惠介監督の作品の中に、同性愛者であった木下の本質を読み解いたものである。

とは言え、はっきりと木下はゲイだったという書き方は一切していない。
それは、本書の雑誌連載が始まった1995年には、木下がまだ存命中だったという事実が少なからず関係しているはずだ。

総論的な第一部、12の作品を詳細に分析した第二部とに分かれている。
第二部のまえがきで、著者はこう記す。

「当初ひとつひとつ孤立したせせらぎとして別個に見える要素が、本文の最後には、それらが互いに流れ込んでかたちづくる巨きな川となって、木下映画を貫いていることが、見えてくれば嬉しい」

「巨きな川」が何を意味するのかは、もはや言うまでもない。

木下映画に登場する男たちに共通する点として、過剰に女から女として迫られることを嫌悪すること、さらに母親を神聖化していることだと分析。
木下自身については、最初は随分回りくどい言い方をする。

「女性でも男性でもない(あるいはその双方であり得る)何かであり、とにかく当時の一般的な男性たちとまったく別の存在であった何かであると思える」

終章近くになり、映画『惜春鳥』が日本メジャー初のゲイ・フィルムだと評し、やっと、それなりに示唆するところまで辿り着く。

「ここには監督が男性同士に演じさせたかった肉体的接触が、かつてなく大胆に<常識>の枠に囚われることなく表現されており、その意味でも監督自身の<好み>を、さらにはっきり言えば<性向>を、堂々と主張した映画と言える」

ちなみに、本書を手にしたのは、著者の石原郁子に興味を持ったことがきっかけである。

彼女は、2002年に亡くなった映画評論家として有名だが、もう一つの顔がBL小説家だった。
伝説の雑誌『JUNE』の誌面で、中島梓の小説道場における有名門弟の一人。
そのずば抜けた純文学的な完成度で中島を唸らせたのが、彼女であった。