想元紳市ブログ

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ピーター・エヴァンス『オナシスの生涯ー欲しいものはすべて手に入れた男ー』

マリア・カラスの愛人であった大富豪アリストテレス・オナシスの伝記を読んだ。

『欲しいものはすべて手に入れた男』という副題が皮肉であることは、娘の次の言葉からもよくわかる。

「幸せをお金で買うことはできない。そのことは、私たち一家が身をもって証明している」

実際、わずか2年の間に、息子のアレクサンダーを飛行機事故で亡くし、息子と娘の母親である前妻のティナを自殺で亡くし、失意からオナシス本人も亡くなっている。

本書が書かれたとき、唯一の生存者であった娘のクリスティーナも、その後、不幸な結婚を何度も繰り返した揚句、37歳の若さで亡くなった。

興味深かったのは、再婚したジャクリーヌ・ケネディとのエピソードである。
悲劇のファーストレディーとしての印象しかなかったが、どうやら全く別の顔を持っていた女性だったことがわかる。

特に彼女の浪費癖は相当なものだったらしい。
デザイナーズブランドの洋服や宝石を買いまくり、マネーゲームにも手を出して莫大な金額を失った。

義理の息子アレクサンダーの飛行機事故の際には、病院にかけつけた彼の婚約者のところに行き、オナシスが財産分与についてどう思っているかアレクサンダーから聞いていなかったか、と詰め寄ったという。

カポーティが、彼女のことを「西洋の芸者ガール」と呼んでいたとは知らなかった。

オナシスが本当に愛していたのはマリア・カラスだったという者も多い。
カラスを捨て、ジャクリーヌと再婚後まもなく二人は密会するようになっていた。

アメリカのTV番組に出演したカラスは、オナシスとの関係を一生に一度の大恋愛だったと語り、恋愛は「結婚しないときのほうがずっといい」と語ったという。
ジャッキーを恨んでいるかとの質問に対しては、
「とんでもない。もちろん、ミスターオナシスをいじめたら許しませんけど」と答えた。
これを聞いて、ジャクリーヌは激怒したという。

現在、オナシス一族の子孫は、クリスティーナの一人娘アシーナ一人である。


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『今度は愛妻家』

映画通の友人が絶賛していた映画『今度は愛妻家』を観た。

主演は豊川悦司と薬師丸ひろ子。
舞台の映画化である。

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1月、劇場公開時に観た友人は、その時点で今年の邦画ナンバー1にしようと、固く誓ったのだという。
彼の言葉は決して大げさではなく、後半は大泣きしてしまった。

描かれるのは夫婦の愛、そして別れだ。
ありきたりな題材だが、元戯曲だけあって、脚本が実に素晴らしい。
また、ときおり驚くような美しい映像があり、心に残る。

豊川悦司という俳優を、今回、初めて好きだと思った。
そして、石橋蓮司演じるオカマの文ちゃんが、実に味があっていいのだ。

夫婦が好きで繰り返し口ずさむのは井上陽水の『夢の中へ』。

「探し物は何ですか
見つけにくいものですか
カバンの中も机の中も
探したけれど見つからないのに」

文ちゃんが、落ち込む豊川を励ます。

「もう前に進んでよ」

すると、豊川はこう答える。

「前に進むって何だよ!」

なんだかよくわかる台詞で泣けた。

 

『バレンタインデー』

この冬、バレンタインに合わせて劇場公開された映画、すばり『バレンタインデー』。

今観るには、あまりに不釣り合いな季節だが、自分はこんなオムニバス映画が大好きだ。
観終わってしばらくすると、中身の大半は忘れてしまうが、観ている間はわくわくと楽しく、それでいいと思う。

こうした映画にとって最も大事な要素は、驚くような豪華スターを揃えること。

本作も文句なし。
ジュリア・ロバーツ、ジェイミー・フォックス、アン・ハサウェイ、シャーリー・マクレーン、ジェシカ・アルバ、アシュトン・カッチャーら。
やがて、それぞれの関係が微妙につながっていくのも、お決まりのパターンだ。

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好きなエピソードはシャーリー・マクレーンとヘクター・エリゾンドの老夫婦の物語。
屋外シアターで、二人が愛を語るシーンがいい。

シャーリー自身が主演した昔の映画が流れるスクリーンを背後に、シャーリーが言う。

「愛とは相手を丸ごと愛すること。いいとこだけじゃなく、嫌なところも、悪いところも」

陳腐であろうと、こんなまっすぐな愛の言葉も時には必要だ、と思えてしまう説得力。

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エンドクレジットにNG集が流れる。
リムジンに乗っているジュリア・ロバーツが、運転手から、ここが有名なロデオ・ドライブだと説明され、「一度買い物したことあるわ、昔、最悪の思い出」と答えるのは、言うまでもなく『プリティーウーマン』のパロディー。
監督は同じゲイリー・マーシャルである。

また、後でわかる、男前な二人のゲイのエピソードもなかなか心温まる。
さりげないどんでん返しも楽しい。

 

三島由紀夫『黒蜥蜴』

映画『おろち』で描かれた、昭和の上流階級の日常や言葉遣いに物足りなさを覚え、ふいに思い出したのが三島由紀夫の戯曲『黒蜥蜴』である。

何度読み返しても、三島らしいきらびやかな台詞、格調高い装飾と比喩の世界に、目もくらむばかりだ。

「危機というものは退屈の中にしかありません。退屈の白い紙の中から、突然焙り出しの文字が浮び上る。僕はそれを待っているんです」

「犯罪が近づくと夜は生き物になるのです。僕はこういう夜を沢山知っています。夜が急に脈を打ちはじめ、温かい体温に充ち、…とどのつまりは、その夜が犯罪を迎え入れ、犯罪と一緒に寝るんです。時には血を流して…」

何度も舞台化、映画化されている本作。
しかし、緑川夫人=黒蜥蜴は、やはり丸山明宏の独壇場だったとしか思えない。
男と女の垣根を軽々と行き来し、強い意志と深い孤独、悪意と良心、相反する二つのものを同時に合わせ持つ、複雑な人間性を完璧に表現しえたのは丸山明宏しかいないとさえ思ってしまう。

『黒蜥蜴』の2007年の文庫版には、三島本人による解説文のほか、座談会が一つ、対談が一つ、最後に美輪明宏によるあとがきが収録されている。

座談会は、三島、原作者の江戸川乱歩、初演で明智を演じた芥川比呂志、杉村春子ら。
これだけの面子にあって、杉村が堂々と自説を述べるくだりなど、さすが昔の女優は人間としての厚みが違う。
最後は、このメンバーで当時流行していた「こっくりさん」をやり始めるというオチ付き。

対談は三島と丸山明宏によるもの。
二人の対談のうち活字になって残っている唯一のものらしく、必読だ。
昭和44年、対談が雑誌に掲載された当時のタイトルが、「十年後、BI(バイ)セクジュアル時代がやってくる?!」。

なかで、丸山が三島の前世は高山右近だと指摘し、「よくよく人を斬るのがお好きなんですね」というくだりは少々ぞっとする。

あとがきでは、黒蜥蜴を演じることになった経緯、当時の三島の印象のほか、台詞の深い意味合いについても解説していて興味深い。


『マリア・カラスの真実』

マリア・カラスの生涯を追ったドキュメンタリー映画『マリア・カラスの真実(カラス アッソルータ)』を観た。

2007年フランスの製作で、カラス自身の映像を中心にナレーションだけをかぶせた、オーソドックスな構成に好感がもてた。

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カラスがいかに偉大なソプラノ歌手であったかは、いまさら語るまでもない。
それよりも興味深いのは、彼女の生き様だ。

完璧主義ゆえにたくさんの反発と摩擦をうみ、金銭を無心する母親とは絶縁している。

古い演目を何度もやりたくないと劇場と対立し、声が出ないと言っては自ら降板した。
自分のやり方を貫いた強さは、当時、言うまでもなく我儘、傲慢、自己中心的だとして激しく批判された。

延々と孤独な戦いを繰り返し、決して楽な人生ではなかったはずだが、こうして生き抜いてしまえばそれは伝説と呼ばれる。
突出した者の宿命なのかもしれない。

彼女の人生を語る上でかかせないのが、大富豪オナシスとのロマンスだ。
恋愛においても、後ろを振り向かず、自分の信念を貫き通す生き方は変わることがなかった。

オナシスとの9年間。
不倫、長年連れ添った夫と離婚し、オペラからも引退、いよいと再婚に向けて動き出すと、オナシスは、元ファーストレディーのジャクリーヌと電撃的な結婚をしてしまう。

その後もカラスは、自殺未遂を起こしたり、往年の声を失いながらも舞台に立ち続けた。

ジャクリーヌと結婚したオナシス、実は互いの利害の絡んだ政略結婚だったというのが通説だ。
また、様々な女性と浮名を流したほか、バイセクシャルでもあったらしい。
しかし、本当に心から愛したのはカラスただ一人だった、とも。

カラスは、よくこう口にしていたそう。

「メロドラマのヒロインは、自ら死の床につくまで、愛する男性に寄り添う」

カラスは、オナシスの死後まもなく、パリのアパルトマンで53歳の若さで亡くなった。