想元紳市ブログ

2010年03月 ≪  123456789101112131415161718192021222324252627282930 ≫ 2010年05月
TOP ≫ ARCHIVE ≫ 2010年04月
ARCHIVE ≫ 2010年04月
      

≪ 前月 |  2010年04月  | 翌月 ≫

『あの日、欲望の大地で』

傑作『バベル』の脚本家ギジェルモ・アリアガの初監督作品である。

本作も『バベル』同様、縦糸と横糸が複雑に絡んだ3つのエピソードが同時に進行する。

何やら重い過去を背負い、刹那的なセックスに身を任せているレストランの女マネージャー。
夫と子供たちに囲まれながら、不倫に溺れる主婦は、過去、乳がんにより乳房を切除している。
目の前で、父親が、飛行機事故により瀕死の重傷を負うのを目撃するメキシコ人の少女。

主演はシャーリーズ・セロンとキム・ベイシンガー。

ともに好きな女優だ。
特に、実在の女性殺人犯を演じた『モンスター』で強烈な印象を残したシャーリーズ・セロン。
南アフリカ生まれで、母親がアル中の父親を射殺したという、壮絶な過去を持つ彼女は、だからこそ本物の女優だと思う。

Charlize-Theron-en-Fuego+(1)_convert_20160124224830.jpg

映画のテーマは母親と娘。
罪と赦しをめぐる、心の葛藤の描いたドラマだ。

複雑な構成に違和感を覚える人もいるだろう。
しかし、人間の個々の内面にある感情や記憶とは、このような時空を行き交う断片の積み重ねではないだろうか?

根底には、一貫して重苦しい空気が漂っているが、最後の最後に、ほんのわずかな、ろうそくの灯のような希望が灯る。
シャーリーズ・セロンがラストに見せた顔が忘れられない。


スポンサーサイト

藤野千夜『親子三代、犬一匹』

2008年、新聞に連載された小説である。

祖母、母、姉、弟と犬のありふれた日常を、淡々と、ユーモラスに描いた独特の世界が心地いい。

たとえば、次のような文章。

『「ねえ、トビ丸って誰の犬なの?夕樹?」
ふいに明彦おじさんが訊いたので、
「トビたんは妹だよ」
章太は驚いて答えた。
「そっか、ごめん、妹か。じゃあ俺の姪っ子だな。トビ丸は」
「うん」章太はうなずくと、やさしい明彦おじさんと一緒に、今来たばかりの道を戻った。
一緒に住んでいるから家族。
甥っ子の妹だから姪っ子。
それくらいのゆるい考え方が、たぶん今の柴崎家にはちょうどいい。似合っている。』

藤野千夜自身、性同一性障害なのか、ゲイなのか、女装趣味なのか、おそらくはっきり明言していなかったと思うが、そうしたゆるい立ち位置は、まさに彼女の書く小説世界そのものである。

物事を、あるがまま、そのままの状態で置いておく優しさ。

彼女の作品の中では、ゲイのカップルを描き、芥川賞を受賞した『夏の約束』が一番好きだ。

今も憶えているのは、芥川賞受賞直後、新聞に掲載された受賞コメントである。
友人の家に遊びに行き、散歩がてら芥川龍之介の墓を探しに行った、という日常を綴った風変わりなエッセイだった。
結局、芥川の墓は見つからず、代わりに太宰の墓に手を合わせて帰ったという結末だったと思う。

いかにも藤野千夜らしく、数あるその手のコメントのうちで最も印象に残っているもののひとつだ。


『好奇心は猫を殺す』

お気に入りの胡軍主演、2005年の映画がやっとDVD化。

cap009_convert_20160124234326.jpg

中国内陸の都市、重慶。
茶色く濁った水の流れる長江沿いに立ち並ぶ、近代的な高層ビル群の風景は、どこか虚しい作り物めいた感じがする。
舞台は、リッチな高層マンションのペントハウスだ。

妻子ある男と若い女の不倫。
中国版『危険な情事』かと思うと、中盤を過ぎる頃からどんどん別の展開を見せる。
主役は、夫と愛人から、妻とマンションの警備員の方へと移っていく。

もっとも、妻と警備員は、映画の最初から、それぞれなにやら不気味な雰囲気を漂わせている。
妻は、何かというと薔薇について書いた百科事典の記述を音読し、暗唱している。小さな子供を寝かしつけながら、そして夫とのセックスの最中にも……。
警備員が、どんなに緊迫した状況でも一枚一枚、舐めるようにお札を数える様子も異様だ。

終盤、この二人は奇妙な心の通わせ方をする。
共に満たされない屈折した感情をもてあましている者同志。
はっきりと描写されてはいないが、警備員は不能ではないかと思われるシーンがある。そして、妻も不感症だったとしたら……。

妻を演じたカリーナ・ラウは、まさしく女優らしい女優だと思う。
どの映画においても、画面にいるだけで、独特のオーラを放つ華やかな存在感がある。

胡軍は、今回、ひたすら弱い男だ。
子供のように嗚咽するシーンには、ファンであるだけに、少々ビビった。
マッチョで兄貴のイメージが強いが、実は、さりげない陰や憂いのある繊細な感情表現に、彼の魅力があるのは確かだが。
ブリーフ一枚の裸体もさらすが、個人的にはもう少し頑張って鍛えてほしいところだ。

598654_convert_20160124234343.jpg


『レスラー』

ミッキー・ローク復活で話題の映画『レスラー』。

当初、ニコラス・ケージがこの役を演じる予定を覆し、監督が強力にミッキーを押したらしい。
見事に大正解だったと思う。
トラブル続きの彼自身の半生と重なって、圧倒的な存在感があった。

80年代に活躍した人気レスラー、ランディも、今は落ちぶれてトレーラーハウスに住んでいる。
スーパーでバイトしながら、ときたま安い興行で日々の生活を立てている。
離れて暮らす一人娘とは疎遠、おまけにステロイドによる心臓発作で、レスリング人生も絶たれるはめに。

fc2blog_20160125000220853.jpg

そんなランディがひそかに心を寄せるストリッパー、キャシディを演じたマリサ・トメイがうまい。
一人息子を育てるために、夜な夜な身体を張って生活している。

どん底の二人は、お互い反発しつつも、不器用に心を通わせていく。

人生のどうしようもないところで、もがき苦しむ男女の、底辺でのふれあいが美しくないはずがない。

最後、全てが空回りし、絶望したランディは、ドクターストップも聞かず再びリングに立つ。
「心臓が」と制止するキャシディにランディは言う。

「俺にとって痛いのは、外の現実の方だ」

彼にとって、それほどまでに現実は過酷なのか。

エンドロールに流れるブルース・スプリングスティーンの歌が泣かせる。

The+Wrestler+Mickey+Rourke+(1)_convert_20160125000202.jpg