想元紳市ブログ

2017年07月 ≪  12345678910111213141516171819202122232425262728293031 ≫ 2017年09月

『戦後短篇小説再発見2 性の根源へ』

戦後の優れた短篇をテーマごとに集めた同シリーズ第2巻のサブタイトルは「性の根源へ」。
坂口安吾や吉行淳之介、新しくは村上龍に至るまで、様々な形の性愛を描いた11作品が収録されている。

本書を最初に読んだのは、ゲイ官能小説を書こうと思い立った2013年頃。
フランス書院やBLの名作、団鬼六や宇能鴻一郎の作品、もちろんゲイ雑誌に掲載された著作を手当たり次第に読みふけった中の一冊だったけれど、あらためて再読してみると、やはりさすがの味わい深さである。

特に好きだったのが、河野多恵子の『明くる日』と野坂昭如の『マッチ売りの少女』。
共に、小説としての面白さはもちろん、ゲイから見て、男性が実に官能的に描かれている点が共通している。

『明くる日』は、子どものいない一組の中年夫婦の日常を綴った物語だ。
肺結核という妻の病気を理由にあえて子供をつくらなかったという事実と、実際は子どもができない体だったという事実の間で揺れる妻・央子と、夫・島田の微妙な関係が描かれる。

央子の視点で描かれるため、島田は脇役ではあるのだけれど、その言葉や行動はとても男性的であり、性的である。

『マッチ売りの少女』は、母親の情夫に強姦されたことをきっかけに、大阪・釜ヶ崎の街娼にまで身を堕とすお安が主人公。
軽い知的障害があり、名前も顔も知らない実父の面影を、自分を抱く男たちにひたすら重ね続ける姿は、せつなくも愛おしい。

父のイメージを重ねたいがため、お安は若い男ではなく、ひたすら中年以降の男を好む。
お安を抱く、大工の継父、ヒモの男、酔っ払いの親父らは、どうしようもなく下劣だけれども、なぜか抗い難い性的魅力を放っている。

日活ロマンポルノの名作『赫い髪の女』の原作として知られる、中上健次の『赫髪』も収録。


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『父子男色酒蔵』

電子書籍『父子男色酒蔵』を配信しました。

老舗の酒蔵を舞台に、屈強な男たちだけで行われる酒造りと跡継ぎをめぐる人間模様。やがて父と子の隠された秘密が明らかになり……。

『G-men 232号(2015年7月号)』掲載作『男の水』を改題加筆修正したものです。

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【あらすじ】
 滋賀の近江に蔵を構える「岡田酒造」は、江戸時代から続く厳格な伝統にならい、女人禁制の男衆だけで粛々と酒造りを続けている老舗の造り酒屋である。
 仕込みから初搾りまで半年以上に及ぶ、寝食一緒の共同生活で最も大事なのが杜氏や蔵人ら男たちの絆であり、そのためなら肉体の奉仕や繋がりは当たり前……。
 そんな岡田酒造である日、仕込みの真っ最中に一人の蔵人が里に帰らざるを得なくなるという事態が発生……。急きょ、現在の十一代目蔵元の一人息子であり、5年前に仲たがいして兵庫の灘にある「北灘酒造」で働いている跡取を連れ戻す決心をする。
 そのためには、北灘の屈強な男たちに己の肉体を差し出すという大きな代償が必要だった。



昔ながらの職人の世界は、実に官能的だと思います。

それぞれの仕事に不器用なまでに人生を捧げ、長年の鍛錬により一つの技を極めた男たち……。
そんな男たちが、ある時に垣間見せる「性」は、極上のエロティシズムではないでしょうか。

もともとは酒蔵の一年を追ったドキュメンタリーを観て興味を覚えたのがきっかけですが、関連書物を読み進めるうちにいろいろと妄想をかきたてられる事実を知りました。

例えば、女性の血を嫌うという昔の慣わしから、一画への立ち入りを密かに禁じ続けている酒蔵がいまだに存在しているらしいこと。
また、床もみと呼ばれる蒸した米をかきまぜる工程では、職人たちが半裸状態で作業するところも決して珍しくないようです。(本作に描いた褌ひとつというのは創作ですが、江戸時代あたりではごく普通だったのではないかと推測しています。)

そんなこともあり、本作は、G誌に発表した拙作の中で最もリサーチに時間を要した小説でもあります。

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父子男色酒蔵

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[想元ライブラリー] の【父子男色酒蔵】

■既刊分はこちら
『流刑の島』
『父と息子の裸祭』
『覗き・刺青の男』
『浪速親父の淫らな純情』
『黒潮―カツオ漁師の熱い夜』
『ゲイ官能小説短編集【男たちの旅】』
『失踪の森【前編】―捜査一課・田所警部の憂鬱―』
『失踪の森【後編】―捜査一課・田所警部の覚醒―』

『神経衰弱ぎりぎりの女たち』

ペドロ・アルモドバルの作品の中で最も好きな『神経衰弱ぎりぎりの女たち』を久しぶりに鑑賞した。

50年代のVOGUEのような、コラージュした女たちのシルエットにスパニッシュポップスが被るタイトルクレジットから、いきなりアルモドバル・ワールドが全開。
やはり何度観ても、他のどんな映画に比べようもないほど、唯一無二の世界を持った作品だと思う。

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ストーリーはいたってシンプルだ。

音信不通になった同棲中の恋人イバンが旅に出るらしいと知って狂乱する女優のペパを中心に、イバンの他の女やペパの女優友達ら、エキセントリックな女たちが入り乱れてハチャメチャな騒動を繰り広げる。

嫉妬、妄想、不安や怒り……そんな他愛もない感情に突き動かされ、翻弄されるエゴイストな女たちは、ひどく滑稽でありながらもどこか可愛く、そして何より強い。

ここでは辻褄が合わないとか、そんな偶然起こりえないといった横槍は全く意味がない。

例えば、劇中こんなセリフがある。

「奇妙なことは突然起こる」
「物事は決して思い通りに運ばない」

生きていれば当たりまえのことを、アルモドバルはコミカルにデフォルメしているのである。

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ペパを演じたのは、アルモドバルの初期のミューズ、カルメン・マウラ。
エゴを貫き通す、狂った女の強さと弱さを見事に体現している。

アントニオ・バンデラスやロッシ・デ・パルマら常連が勢揃いし、風変りな個性を発揮しているばかりか、アルモドバルの手にかかると、電話交換手の女や薬局の店員ですら強烈な印象を残す。

自分にとって何よりもツボなのは、イバンの昔の恋人ルシアだ。
奇妙なファッションとヘアメイクに負けないぐらいの異常キャラである。
イバンの浮気に心を病んで入院していた病院から出てきたばかりという設定であり、ペパと同じくイバンを探して、大事件を引き起こす。

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痛烈なドタバタコメディであることに間違いはないのだが、実は裏に骨太のテーマが隠れている。
それを象徴するのが、映画の冒頭に置かれた、ペパのモノローグだ。

「崩れかける世界で、私は自分と世界を救おうとしていた。まるで”ノア”だ。すべての動物をカップルで救ってやりたかった」

神経をすり減らすような混沌を極める世界の中で大事なことはいったい何なのか。

極端に振り切った女たちの姿から伝わってくるのは、意外にも、無様な人間の放つ愛おしさと大いなる女性賛美である。

『失踪の森【後編】―捜査一課・田所警部の覚醒―』

前編に続き、『失踪の森【後編】―捜査一課・田所警部の覚醒―』を配信しました。

孤高の刑事の潜入捜査を描く官能ミステリーの完結編。山奥の寺で繰り広げられる狂乱と覚醒、そして悟り……。捜索が無事終了したかに見えたとき、驚愕の事実が判明する。

『G-men 230号(2015年5月号)』掲載作『失踪―警視庁捜査一課警部・田所雄作』を改題加筆修正したものです。

失踪の森3

【あらすじ】
 上司の一条警視から、失踪した代議士の子息・須藤高志の極秘捜索を命ぜられた警視庁捜査一課に属する孤高の警部・田所雄作。与えられた期間は3週間。九州山系の険しい山道を3日かけて進み、ようやく辿り着いた「男王寺」の別院「奥ノ院」は、住職である玄乗のもと、それぞれに謎めいた訳ありの男たちが集う修行の寺だった。
 全身刺青の極道、屈強な元レスラー、2人の若い僧、下働きをする熊のような男など……。
 夜毎に繰り広げられる肉欲の狂乱。やがて、雄作自身の心と体も否応なしに解き放たれていく。
 ついに見つけ出した高志が告白する、失踪の理由と秘密……。
 これで捜査が無事終了したと安堵し下山した雄作を、ある衝撃の事実が待っていた。



以前にも書いた通り、好きでよく観ている番組『新日本風土記』では、山や海を舞台にした各地の伝統的な祭りや儀式がたびたび紹介されます。

男性しか参加できないという排他的なものも少なくなく、また裸祭りなどに限らずとも、代々男たちの間で受け継がれる風習やしきたりには、たまらなく妄想をかきたてられます。

もちろん番組の中では男色や衆道との繋がりをあからさまに指摘しませんが、日本史における男色の位置づけを考えると、何らかの深い関係があるものも確かに存在しているでしょう。

一時、その類の著作を手当たり次第に読んだことがありました。

最も先駆的なものは岩田準一の著作でしょうか。江戸川乱歩や南方熊楠とも深い交流があり、そのあたりの裏の関係も気になるところです。

ちなみに、乱歩の『孤島の鬼』は岩田をモデルにした美青年が登場する男色小説であり、独特のエログロ風味が奇妙な味わいの異色作です。

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失踪の森【後編】―捜査一課・田所警部の覚醒―

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■既刊分はこちら
『流刑の島』
『父と息子の裸祭』
『覗き・刺青の男』
『浪速親父の淫らな純情』
『黒潮―カツオ漁師の熱い夜』
『ゲイ官能小説短編集【男たちの旅】』
『失踪の森【前編】―捜査一課・田所警部の憂鬱―』

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』

ケイシー・アフレックがアカデミー主演男優賞に輝いた『マンチェスター・バイ・ザ・シー』。

ケイシー演じる主人公のリーは、ボストンに住む、水漏れの修理などアパートの雑用を引き受ける便利屋である。
人と交わらず、愛想が悪いどころか平気で暴言を吐き、おまけに酒が入るとすぐ血が上って暴力をふるう。
映画の冒頭、そんな嫌われ者のイヤな男として登場するリーのもとに、兄ジョーの訃報が届く。

ボストンから車で1時間あまり北上した故郷の港町がマンチェスター・バイ・ザ・シーだ。
リーは葬儀の手配や遺された高校生の甥パトリックの面倒を仕方なくみる一方、遺言で自分が後見人に指定されていることを知る。

かつては子煩悩で、妻を愛し、その人柄から友人も多かったリー。

物語は、現在と過去を交互に描いて進み、少しずつリー自身が抱える心の闇、その原因となった壮絶な過去が明らかになってくるのである。

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結局、リーはもちろん、その周囲に誰一人として嫌なキャラクターはいないのだが、どの関係性にも何やら不安定な違和感が終始拭えない。

リーの同意なく、無断で息子の後見人に指定して世を去った兄のジョーは、すでに数年前から余命宣告を受けていた。
パトリックは父の死を淡々と受け流しながら、心底では孤独と哀しみに打ちひしがれている。
パトリックの母は、おそらく酒が原因で離縁され、今は離れた場所で再婚しているものの、どうもあまり幸せそうには見えない。

誰もがみな、それぞれ逆境や挫折の中、ときに酷い傷を負いながらもなんとか普通を装って生きているのである。

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葬儀で、リーが久しぶりに再会する元妻のランディ。
ランディもすでに再婚し、今や妊娠中でいっけん幸せそうに見えるのだが……。

ところが、その後、道でばったり出くわしたランディは、突然、リーを前に取り乱し、癒えることのない痛みと謝罪を涙ながらに吐露するのである。

逆境に耐えながら踏ん張るように生きている2人が、崩れ落ちるように素顔を曝け出す姿に、激しく心を揺さぶられた。

ランディを演じたのがミシェル・ウィリアムズだ。
ブロークバック・マウンテン』でも『ブルーバレンタイン』でも、彼女の素晴らしい演技にはいつも泣かされる。

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確かな出口が示されぬまま映画は終わるが、リーとパトリックが交わす不器用なキャッチボール、そして船上に佇むリーの姿には、ほのかな再生の兆しが見える。

アカデミー賞の授賞式で、兄のベン・アフレックが目を潤ませながら、ケイシーの受賞スピーチを客席から見ていたのがとても印象的だった。